夏休みの予定はどうですか?


 あっという間に夏が来て学校は夏休みに突入する。

 終業式が終わり予定表で自分の出勤日を確かめてから私は例によってロクくんの部屋へと向かう。


 ロクくんも今日が終業式だって言ってたからお昼過ぎには帰ってくるだろう。


「ただいま〜」

 まだ主が帰ってきていない部屋に入って冷房を入れてロクくんの帰りを待つ。

 この部屋に始めてきてからもうすぐ一年が経とうとしている。

 一年前となんら変わりのないロクくんの部屋を改めて見渡して感慨深いものを感じる。


 唯一増えたと言えるのは壁に掛けてあるボードに私とロクくんの写真が貼ってあることくらいだ。

 あちこちに遊びに行ったついでに私が撮った写真をこうして貼ってくれている。


 口ではキツイ事を平気で言うロクくんだけど案外こんなところで優しかったりする。


「へへへ、ここの写真も結構増えたなぁ」

 ボードに貼られた写真を眺めていると玄関が開く音がしてロクくんが帰ってきた。


「あ、おかえり〜」

「ただいまです」

 たったったと駆け寄って、ぎゅっと抱きつくとそれなりに抱き返してくれる。

 ええ、それなりに。ちっ。

「今、舌打ちしませんでしたか?」

「ん?何のことかなぁ?」

 こんな会話もすっかり日常的になり私はロクくんと一緒に部屋へと戻る。


「明日から夏休みですね、先生は学校とかどんな感じですか?」

「こんな感じかな」

 鞄から予定表を出して机に広げるとロクくんも自分の鞄から予定表を出して広げる。


「先生、この日って休み取れますか?」

「う〜ん、多分大丈夫だと思うよ」

「ほら、ここ丁度こないだの大会の決勝トーナメントがあるんですよ」

「あ、そっか、じゃあお休み取らないと」

 あれから密かに私はロクくんや田中君、檜山君カップルにゲームを教えてもらっていたりする。

 流石に世界を舞台に活躍している子達に教えてもらっているだけあって私の実力は一気に上がってしまった。

 オンライン対戦でもそれなりに渡り合えるようになってきたし、ただのお飾りではなくなった。

 次は決勝ということもあり前回のように立っているだけというわけにもいかないのでこうして教えてもらったのだ。


「先生も随分とサマになってきましたしね」

「えへへ〜そうかな?」

「はい、最初の頃はどうなるかと思ってましたが、案外いけるものですね」

「でしょ?でしょ?」

 そりゃそうだ、なんと言っても教えてくれるのが世界ランカーなんだからこれで何ともならなければ素質がないだけだろう。

「でも決勝トーナメントだから相手も結構なんでしょ?」

「もちろんですよ、各地方の予選を勝ち抜いてきたチームばかりですからね」

「ロクくんみたいに世界で戦ってる人もいるの?」

「そうですね……多分何人かは出てくると思いますよ」


 晩御飯を食べながら参加してそうなロクくんの知り合いについての話しを聞く。

「トータル的なもので言えば負ける要素はないと思いますが、かなり僕達は研究されていますからね」

 元は同じパーティだった友人や色んな大会で顔見知りになった人、他にも隠れた強豪がいると思いますとロクくんはアジの開きをつつきながら話してくれた。


「強いて言うなら先生はまだ研究されていませんからその辺りがアドバンテージですね」

「ムフフ〜秘密兵器ってわけだね」

「秘密のまま終わらないことを祈っておきます」

 いつも一言多いんだよロクくんは。


「「ごちそう様でした」」


 晩御飯も終わりソファ──床に座るのも味気ないので私が新しく買ってきた──に座ってロクくんの肩に頭を乗せてボーっとテレビを見る。

 特に何かをするわけでもなく、ただこうしてぼんやりと大好きな人の隣で過ごせる時間を大切にしたいと思う。

 そんな私の心のうちを知ってか知らずかロクくんは優しく頭を撫でてくれる。


 目を閉じているとウトウトと眠気が襲ってくる。

 あぁぁ……まだこの後一緒にお風呂に入ってイチャイチャして……ぐぅ……



 窓から差し込む朝日が眩しくて目を覚ます。

 え〜っと……ああ、そうか、昨日はロクくんにもたれててそのまま寝ちゃったんだ。

 薄手のシーツにくるまって眠っていた私の隣にはロクくんが丸くなっている。


「うふふっ可愛いなぁ……」

 普段はクールな毒舌家のロクくんもこうして眠っていると年相応だ。

 サラサラの黒髪を撫でてあげるとくすぐったそうに身をよじるのがまた何とも可愛い。


 ちゅっ。


 ちゅっ。


「……んん」

 余りの可愛さに抱きついてキスをしまくる私。

「……先生?」

「んふふ、おはよ、ロクくん」

 ようやく目を開けたロクくんはイマイチ現状が理解出来ていない様子でまだボーっとしている。


 ちゅっ。


「起きたかな?」

「ええ……はい。起きました」

「そっか、じゃあイチャイチャしよ〜」

 抱きついたままロクくんの身体をまさぐる。

「あのですね……朝から何をしてるんですか」

 目を覚ましたロクくんは通常運転だけど抱きついた私を引き離そうとはしない。

「……わっ?……ロクくんも……男の子だね?」

「……生理現象です」


 そんな夏休みの幸せな一コマ。


 この後ロクくんに盛大なゲンコツを頂いた私はシクシクと泣きながら朝ご飯を作ったのでした。


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