それはそれで照れませんか?


 照りつける太陽!

 真っ青な海!そして砂浜!


 ……の予定が……見渡す限りの人、人、人。


「そりゃそうですよ、これだけ暑かったら考えることは一緒ですって」

「それもそうよね……」

「とりあえず場所の確保が先決ですね」

「うん」

 砂浜いっぱいに立ち並ぶビーチパラソル。これだけ並ぶとある意味壮観だわ。


 食べ物屋さんや海の家からかなり離れた場所まで行くとだいぶ人も減り見晴らしのいいところにビーチパラソルを立ててシートをひく。

「この辺りまで来ると結構場所も空いてるんだね」

「飲食店や駐車場からかなり離れてますからね」

「よしっ!じゃあ海へレッツゴー!」

「子供ですか……」

 羽織っていたTシャツを脱いでショートパンツも脱いでっと。


「どう?どう?ね?ね?」

「はいはい、可愛いです」

「ぶうぅ〜返事が適当〜」

 先日ロクくんと一緒に買いに行った新しい水着だ。

 ウエストもキュッとなったので中々いい感じだと思うんだけどなぁ。

「可愛いでしょ?ね?」

「可愛いですよ、普通に」

 ロクくんはじっと私を見つめてもう一度感想を言う、いつもの笑顔で。


 ……あの……そうじっと見られるとそれはそれで恥ずかしいんですけど……


「先生ってストレートに言われると恥ずかしくなるんですよね」

「〜〜〜〜っっ」

「可愛いです、本当に似合ってますよ」

「わかった!もういいからっ!ごめんなさい!」

 ぺたんと座り込んだ私を見て可笑しそうに笑うロクくん。

 あまり外に出るタイプじゃないから肌は白いけど案外キレイに筋肉がついていて思わずドキドキしてしまう。

 部屋では見慣れているはずなのに……一緒にお風呂にも入ってるしハダカも見てるのにぃ〜

「どうかしましたか?」

「わかって言ってるよね?」

「はい」

 賑わいからちょっと離れているせいか波が打ち寄せる音が静かに聞こえる。


 日差しが暑く砂浜は焼けたようだけど、時折吹く風が心地よく通り抜けていく。

 一頻り恥ずかしかったあと、ロクくんと一緒に海で思い切り遊ぶことにした。


 何年かぶりに来た海はロクくんと一緒だったこともありこの上なく楽しくて夕暮れに染まるくらいまではしゃぎまくった。

 太陽がゆっくりと海に沈みつつ茜色に染まる空を砂浜から2人で見上げている。


 あれだけ大勢いた人も随分と疎らになり家族連れはみな帰り支度をしている。


「ちょっと寒くないですか」

 そう言ってロクくんが後ろから抱きしめてくれる。


 ……部屋でも外でもロクくんって変わらないんだよね。

 周りの視線を気にしないっていうか。

 ロクくんの体温が伝わってきて、意識してしまうとドキドキする。


「はい、じゃあ帰りましょう」

「……イジワルだよね?」

「そうですね」

「……ん」

 恨めしげに見上げた私に笑いかけもう一度文句を言ってやろうと開けかけた口を塞がれる。


「んんっ……は……」


 ザザァッと波が打ち寄せる音が遠くに聞こえる。

 相変わらずの蕩けるようなキスは、ここが外で海だということもありより一層刺激的だった。


「ふあっ……」

「あれ?帰らないんですか?」

 腰に力が入らなくて座りこんだ私を面白おかしそうに見るロクくん。


 はあ、もう、立てるわけないじゃない。


「よいしょっと」

「わ、ちょ、ちょっとロクくん……」

「荷物はまた後にして先に先生ですね」

 私を、お姫様抱っこして砂浜をさくさくと歩いていく。

 いくらか残っていた人達からキャーキャーと黄色い歓声が上がるのを全く気にせず駐車場へと向かうロクくん。

 ひえぇ〜は、恥ずかしいよぅ〜!


「ろ、ロクくんは……恥ずかしくないの?」

「特に何とも」

 私は恥ずかしくて死にそうなのにロクくんは至って涼しい顔だ。


「はい、じゃあ荷物を取りに行ってきますね」

「う、うん。あ、ありがと」

「ふふっどういたしまして」

 そう言い残して砂浜へと歩いていくロクくんの後姿を見送り車の中で悶える私。


 いやあぁぁぁ〜!公衆の面前でお姫様抱っこされちゃったぁ〜!


 地平線に沈む夕陽をバックに砂浜をお姫様抱っこって……どこのドラマだよ!

 ロクくんが荷物を持って戻ってきても私のドキドキとニヤニヤは止まらなかった。



「「ただいま〜」」


 部屋へ帰ってきて2人してゴロンと横になる。

「ふえぇ〜楽しかったね〜」

「はい、楽しかったですね」

 フローリングが冷たくて気持ちよくこのまま寝てしまいそうになる。

 隣を見ればロクくんも欠伸を噛み殺していた。

 コロンと転がってロクくんの胸に顔を埋める。

 くんかくんか……ロクくんの匂いだ。


「おネムですか?」

「ん……」

 ぽんぽんと撫でてくれる手はいつもと同じく優しい。

 ちゅっとキスをして静かに目を閉じれば耳に潮騒の音が聞こえる気がする。


「また行こうね」

「そうですね……また来年ですね」

「うん!」



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