海に行きませんか?



「ロクくん!海行こっ!海!」

「急にどうしたんですか?」

「むふふふ〜」

 いつも通り、仕事帰りのロクくんの部屋で私はロクくんを海に誘っている。

 そう!夏だっ!夏と言えば海!

 燦々と降り注ぐ太陽に白い砂浜、真っ青な海!


 え?プヨっでポヨっはどうしたのかって?


 ふっふっふ、ダイエットにダイエットを重ねさらにダイエットをしたおかげでボンキュボンのナイスバディを手に入れたのよ!


「キュッは認めますけど、ボンはどうかと思いますよ」

「うぐっ、またしてもダダ漏れ……」

「まぁどの辺りがボンなのかはさて置き」

「いやいや、ボンでしょ?ほら?ね!」

 エプロンを外してロクくんの前でふりふりとして見せる。


 ……いや、うん、ポンくらいかも。


「最近すっかり慣れちゃってない?ロクくん」

「半年以上その格好を見てますからね、普段着と変わらないですよ」

「人を痴女みたいに言わないでっ!」

「ただの変態でしょ?」

「し、失礼な!私はロクくんを喜ばしてあげようと……」

 よよよ、と泣いてみせる私に「普通の人は玄関で脱いだりしませんから」とにべもなく言い放つロクくん。


 それもそうか、と思わず納得。


「こほん、それはそれで置いといて。という訳で次のお休みには海に行こうね」

「はいはい、じゃあどこに行くか考えておいて下さいね。まだ決めてないでしょう」

「……う、うん。わかりました」


 勢いだけで決めちゃったから確かにどこに行くのかはこれから考えないと。

 気温も40度に届こうかというくらいに高くなっていておそらくはどこに行ってもいっぱいな気もする。


 だけどっ!海いきたもん!ロクくんときゃっきゃしたいもん!

「と、その前に水着を買いに行かないとだね」

「あ〜そうですね、僕もありませんし近いうちに買いに行きますか」

「うん、じゃあ明日ね!」

「……先生の近いうちは明日なんですね」

「善は急げって言うじゃない」

「何が善かさっぱりわかりませんけど……」



 という訳で翌日学校が終わってからロクくんと待ち合わせをして水着を買いに近くのショッピングモールへとやって来た。

 午後7時をすこし回ったくらいでもかなりの人で賑わうセンター街を二階へと上がりショーウィンドウに飾られた水着を見て回る。


「ロクくん!ロクくん!これ可愛くない?」

「はい、そうですね」

「ほら、こっちはどう?」

「いいをじゃないですか」

「心がこもってな〜い」

「と言われましてもですね、正直水着と下着、似たようなものに思えるんですが」

「違うよぅ!下着は見えないからいいんであって、水着は見えるからいいんだよっ!」

 ロクくんはわかってないなぁ、開放的な空の下でギリギリを攻めるからいいんじゃないか!

「と言っても普段からアレですから説得力が皆無ですね」

「アレって何よ!アレって!残念な人みたいに言わないで!」

「実際残念な人ですって」


 男の子はみんな好きだと思うんだけどなぁ、そういうのって。

 水着って女の子的には下着とはまた別な意味で好きな男の子には見てもらいたいものなんだよね。

 夏の海やプールに行くとかなり際どいのを着てる子もいるけど、やっぱアレは彼氏さんとかに見てほしいからなんだよ。


「それで先生はどんな水着にするんですか?」

「う〜ん、どうしようかなぁ?ロクくんはどう思う?可愛い系?セクシー系?」


 一応ロクくんの好みを聞いてみる。


「僕ですか?そうですね……先生が着るならどんなのでもいいですよ」

「……ありがと」


 サラッと言うんだから、この彼氏さんは。

 くうぅ〜っ!色々悶える〜!


「こんなところではぁはぁしないでくださいね」

 それで上げて下げるのね……

「と、まぁ冗談は置いといて僕としては可愛い系の方が似合うとは思いますよ」

「そ、そう?」

「はい、先生は可愛いですから」

「……ホント、ロクくんって顔色ひとつ変えずにそういうこと言うよね」

「先生の顔色の変わり具合は中々に面白いですよ」

「誰のせいよ!誰の!」

「さぁ?」

 さぁ?じゃないよ!さぁじゃっ!


 息を整え、深呼吸して気持ちを落ち着かせて……よし、気を取り直して水着選びを再開する。


 それから小一時間くらいあれでもないこれでもないと悩んだ末に可愛いのとセクシーなのを一着づつ買うことにした。

 う〜ん、どっちも捨てがたかったから。



「じゃんじゃ〜ん!どう?似合ってる?」

 買い物から帰って来て晩御飯を食べた後、私は部屋で水着を着てロクくんに見てもらう。

「はい、似合ってます。すごく」

「えへへ〜そ、そうかな?」

「似合ってますけど……」

「けど?何?」

「どうしてエプロンもつけてるんですか?」

「え?だってせっかくだし」

「何がせっかくなのか、さっぱりわからないのですが」


 下着エプロンが最早何の効果がない今、やれることはハダカエプロンか……水着エプロンでしょうよ!


「先生の発想が驚きです」

「ドキドキしたりする?」

「いえ、全く」

「くっ、手強い」

 やれやれと首を振るロクくんは、半分は海まで取っておきましょうと言ってキッチンへお茶を取りにいった。

「じゃあ海はセクシー系で行くね」

「ご自由にどうぞ」


 結局最終的に対応は塩なんですね。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る