一番に大切ですか?


 お日様がちょうど真上にくる頃、1時間余りの休憩時間になる。

 一応教師なので教員用のテントにお弁当が用意されているのでそれを取りウロウロとロクくん達を探してみる。


 ……あはは、探すまでもなく発見。

 だってくま◯んの周りに子供達が群がっていたから。


「あ、先生。お疲れ様です、今からお昼ですか?」

「うん、って言うか凄い人気だね、アレ」

「ははは……」

 ロクくんの隣で乾いた笑いをする田中君と檜山君。

「全くあの子はいっつもあ〜なんだから」

 会長さんがため息をつきながら苦笑いしている。

 少し向こうでは相変わらず子供達にもみくちゃにされている某有名ゆるキャラが。


「いつもって普段からアレを被ってるの?」

「え?ああ、いやそうじゃなくてですね、彼女はコスプレイヤーなんですよ」

「コスプレ?」

「はい、結構有名なんですよ。あとああやって着ぐるみとかに入って保育園に行ったりとかしてまして、子供が好きなんでしょうね」

 校庭の大きな木の下で私達は子供達と遊んでいるくま◯んを眺め笑いあった。

 時間も時間なのでお弁当をつまみながらロクくん達に学校の話を聞いたり昼からの予定を話していると教員は準備のためテントに戻る様にと放送がかかる。


 私はロクくん達とわかれ渋々とテントへと引き上げる。


 お昼からは主に各種目の決勝が行われる。

 100mだったり障害物競走だったりだ。

 後は父兄参加の競走があったりPTAの方々によるなんだかよくわからない出しものがあったりでそれなりには盛り上がっていた。


 で、観覧者参加の借り物競争が最後にあるんだけど……ロクくん達の中で参加するのはロクくんと生徒会長だった。

 どうやら他の3人は抽選に漏れたみたいだ。


 それはそうとロクくんはジーンズにパーカーだからいいとして生徒会長は普通に制服なんだけどあれで走るつもりなんだろうか?

 おまけに結構な美少女なわけだから注目の的になっている。


 競走がスタートして順調にコースを走っていく。

 そして、お待ちかねの借り物になったのだけど……引いた紙を見てロクくんが何やら真面目な顔をして考えているのがテントから見えた。


 何か変なのを引いたんだろうか?


 私がそんなことを考えていると、


 ん?ロクくんがこっちを見てるけど?

 あれ?こっちに歩いてくるよ?


「ちょっとすみません」

 ロクくんがそう言いながら教員用のテントに入ってきて私に声を掛ける。

「先生、一緒に来てもらってもいいですか?」

「え?」

「……これです」

 ロクくんは借り物の紙を私に差し出す。


 え〜っと、なになに。


『あなたの一番大切な人』


 ……ろ、ロクくん。

「いいですよね?」

「はい……」

 差し出された手を取り私はちょっと泣きそうになってしまった。

 横から見ていた他の先生方から冷やかしを受けつつ私はロクくんと手を繋いでコースに戻る。

 他の参加者の皆さんはまだ借り物を借りれていないようで私達がトップだった。


「あの……ロクくん?」

「先生の他に誰がいるんですか」

 いつもと変わらないロクくんの表情だけど少しだけ赤くなってるのは気温のせいじゃないと思う。


「いきましょう」

「うん!」

 そんなロクくんと一緒にコースを走り始めたのだけど。

「ロクっ!優勝は私達よっ!」

「うわっ!か、会長っ!」

 怒涛の勢いで私達の隣を駆け抜けていく会長さんと……引きずられて断末魔をあげるゆるキャラ。


「…………」

「2番でいいよね」

「はい」



 最後に変な盛り上がりを見せた体育祭はこうして幕を下ろした。

 毎年毎年何かしらのドラマが生まれる行事ではあるけど私にとっては何よりも嬉しい出来事だった。


 片付けが終わりロクくんの部屋へと向かう道すがら、私は一枚の紙を丁寧に折りたたんでお財布へとしまう。


 大好きな彼が自分の事を大切だと言ってくれた記念に。


「ロクく〜ん!ただいま!」

「おかえりなさい、先生」

 普段と何一つ変わらないロクくんの態度と部屋の風景が私には少し輝いて見えたのは気のせいじゃないはず。

「お腹空いてない?」

「空いてますよ、お願いしますね」

「うん!」

「……先生、何に勝負を挑むつもりです?」

「え?だって……ねえ?今日こそはでしょ?」

「疲れたから寝ますよ、いや、ホントに」

「え〜!大切な彼女だよ?一番さんだよ?紐紐でスケスケだよ?」

「……おやすみなさい」


 晩御飯を食べ終わるとロクくんは本当にすぐに寝てしまった。


 はぁ……一体いつになったらエッチしてくれるんだろう?

 気持ち良さげに私の膝枕で眠るロクくんの顔を見つつ私も若干の不満を持って眠りについた。






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