体育祭に来ませんか?
雲ひとつない青空がやけに眩しく、少し暑くなってきた風が校庭に舞い込む5月も終わり頃。
毎年恒例の新入生歓迎行事も無事に終わり学校内は体育祭の準備をし始める。
あまり暑くなる前にと夏本番を迎えるまでにうちの中学では体育祭が6月の半ばに開催される。
中学校の体育祭にしては珍しく他校の生徒や卒業生も観覧が自由なこともあり毎年かなりの盛り上がりを見せる。
先日、ロクくんに話したところ友人達と見にくると約束してくれたので私のテンションは上がりっぱなしだ。
と言っても私が何かするわけではないんだけど。
この日の準備があらかた完了しロクくんの部屋へと向かう。
「あれ?」
ロクくんが住むハイツの前まで来るとロクくんと……制服を着た女の子が話をしているのが見えた。確かあの制服はロクくんと同じ学校のはず。
も、もしかして……う、浮気?
いやいや、ロクくんに限ってそんなこと……
電柱の影に隠れてそぉっと不審者よろしく様子を伺う。
ロクくんにじりっと詰め寄り何かを言っているみたい。
遠目でもわかるくらいの綺麗な女の子だ。黒髪ロングのストレート、身長も高くてスラっとしていて如何にも美少女ですってオーラが出ている。
……いや、別に悔しくなんかないですから。
それはさて置き、ちょっと近過ぎやしませんか?お嬢さん。
我慢出来なくなった私はさも今来たばかりを装って歩いて行く。
「ロ〜クくん?」
「あ、先生!丁度いいところに!助けてください!」
「はい?」
声をかけるとロクくんはお手上げだとばかりに両手を上げ私に助けを求めてきた。
「ちょっとロク!助けてとは何よ!私は別に何かしてる訳じゃないでしょっ!」
「会長は圧が凄いんですよ、圧が」
ロクくんにぐわしっと言い放ちこちらを振り返る女の子。
間近で見れば本当に驚くほどの美少女だ。
うわぁ、これはちょっと……勝てないかも。
「先生ってことは……あなたが相川さんね!」
「う、そ、そうよ!そう言うあなたは誰かしら?」
確かに圧が凄い。こういうのって持って生まれたものなのか、自然と相手を威圧するような空気を纏っている。
「私は西木 彩華。ロクの学校の生徒会長よ!」
「生徒会長?……あ〜檜山君の彼女さん?」
「……ロク?あんた何を話したのかしら?」
私の返事にくるりとロクくんの方を振り返りドスの効いた声でそう言っている。
「え?いや、僕は何も。ね、ねえ?先生」
「う、うん、ひ、檜山君にね。うん、聞いたから」
「……まあいいわ、それよりどういうことよ!大会にこの相川さんが出ていたって!」
「それは檜山君から聞いたんじゃないんですか?」
「ええ、聞いたわよ!聞きましたとも!ていうかあんた達なら3人でもいけたでしょ!」
「いや、まぁそれはそうですけど」
「おかげで私は夏の大会に出れないのよ!」
ああ、なるほど。こないだの大会に私が参加してしまったから4人めとして出れなくなったんだ。
「私、いつでも変わりますけど……」
「それが出来たらこんなところでロクに文句を言ってねーよっ!」
「……ですね。一度エントリーすると変更は不可なんです」
え〜そんなの聞いてないし?
それじゃあ会長ちゃんちょっと可哀想じゃない?
「そもそも先生をって言い出したのは檜山君ですし」
「くそがぁっ!海斗のヤロウ謀りやがったな!」
あの〜会長さん?言葉遣いが危ない人になってますけど……
「と言うわけで文句なら檜山君にお願いします」
「はぁ?私が海斗に文句?んなもん言うわけないだろーが!フラれたらどーすんだ!あぁ?」
えっと……その言葉遣いでフラれたりはしないんだ?
「知らないですよ、そんなの」
「あぁ?ちっ怒りがどーも収まらねぇな。おぅ、ロク!テメェも田中も学校で会ったら覚えとけよ?」
「いやです。忘れます」
「ちっ、冷静に返してきやがって」
見た目は美少女、中身は……ああ、なるほどこれは残念なわけだ。
この見た目でこの喋り方はダメだよね、アウトです、アウト。
ふぅふぅと荒い息をついて会長は私に一言挨拶をして去っていった。
「相川さん、ではまた、ご機嫌よう」
……怖っ。笑顔が怖っ!
「……部屋入りますか、先生」
「うん……」
ぐったりしたロクくんと私はトボトボと部屋へと階段を上っていった。
「何て言うか、凄い人だね」
「はい、もう慣れましたけど、最初は驚きましたね」
「生徒会長なんだよね?大丈夫なの?」
「あれはアレで楽しい人ですから問題ないんじゃないですかね、檜山君が上手く扱ってますし」
学校ではあんな話し方はまずしませんから、とロクくんは笑っている。
それもそうだろうけど……まぁなんというか……あれ?私何しに来たんだっけ?何か用があったような?
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