ちょっと浸かりにいきませんか?
無事にロクくんとの仲も直った私だったが学校では相変わらず中島先生に付きまとわれり日々が続いていた。
真っ直ぐすぎるというかなんというか……私が言うことでもないけど他に好きな人を見つけたほうがいいと思ってしまう。
いつもの商店街で買い物を済ませ愛しの我が家(仮)へと向かう。
「ただいま〜」
「おかえりなさい、先生」
いつもの定位置である壁際にもたれて雑誌を読んでいたロクくんが顔をあげる。
「ふぅ、今日も一日頑張ってきたよ〜」
「はいはい、偉いですね」
「えへへへ〜」
買い物袋をポイっと台所に放り込みロクくんのお隣に座りよしよしとしてもらう。
ついでにただいまのちゅうも。
「なんだかすっかり毎日来てませんか?先生」
「え〜だって一緒にいたいじゃない?」
「まぁかまいませんけど、僕明後日からテストなのでちょっと勉強を……」
「……私とテスト、どっちが大事なのよ〜」
「……とても教師の言葉とは思えませんね、それ」
聞こえない……聞こえない……
なぁんにも聞こえない〜
「仕方ないわね、先生が教えてあげるわよ」
「今更感が満載ですね……もう明後日なんですけど」
ジト目で見られても気にしない気にしない。
そう言えばロクくんって頭いいんだっけ?聞いたことなかったな。
「ロクくんって頭いいの?」
「……あのですね、仮にも元担任でしょ?覚えてないんですか?」
「あ〜、うん、ん?えへへ〜」
はい、ごめんなさい。覚えておりません。全く。
だってあの頃はこうなるなんて夢にも思ってなかったし沢山の生徒の中のひとりだったわけだし。
でも高校は結構有名な進学校だから頭はいいんだよね?
「えへへ、じゃありませんよ、全く。一応学年では上位に入ってはいますけど」
「おお〜っ、やっぱ頭いいんだ」
「なんかもうどうでもよくなってきましたよ」
パタンと教科書を閉じてやれやれといった風に肩をすくめるロクくん。
「あれ?やめちゃうの?」
「先生が隣にいると気が散って勉強なんかできませんよ」
「……私のセクシーさにメロメロなわけね?」
「……アホですか?」
誰がアホよ!誰が!
よし、じゃあロクくんも勉強しないことだし晩御飯の支度をしようかな。
「じゃあ先に晩御飯食べる?」
「はい、そうします」
「「ごちそうさまでした」」
さてさて、ご飯の後はお待ちかねのお風呂タイムなのです。
「ロクく〜ん、お風呂入ろう」
「あ〜言ってませんでしたっけ、今お風呂調子が悪くてお湯が沸かないんですよ」
「え?ええ?ええっ?」
「驚きすぎです、何ですか、その三段活用みたいなのは」
そ、そんなぁ〜ご飯の後はロクくんとお風呂でイチャイチャするのが楽しみなのにっ!
一日の疲れを癒してくるる大事な時間なのに。
「と言うわけで、銭湯行きません?」
「銭湯?」
「はい、銭湯です。と言っても流行りのスーパー銭湯ではなくて昔ながらの銭湯ですけど」
……昔ながらの銭湯……壁に富士山が書いてあるやつ?神田川的な?
「行くっ!行きます!さあ!行きましょう!」
「先生って本当にお風呂好きですね」
「ロクくんと一緒に入るのが好きなんだよ?」
「銭湯は混浴じゃないですからね」
ロクくんの部屋から案外近く、10分くらい歩いた町中の裏通りに面した場所にその銭湯はあった。
こんな近くに銭湯があるだなんて知らなかった。
ロクくんが言うには偶々歩いていて見つけたらしくちょくちょく入りに来ているそうだ。
昔懐かしい暖簾をくぐると番台に座っていたおばちゃんが愛想良く話しかけてくる。
「おやおや、にいちゃん今日は別嬪さんを連れて……にいちゃんのコレかい?」
「ははは、まぁそうですね」
ニヤニヤ顔で小指を立てるおばちゃんと苦笑するロクくん。
えへへ〜コレです、コレ。
おばちゃんに小指を立てて頷く私と再度苦笑するロクくん。
「じゃあまた後で」
「うん」
大きな扇風機が置いてある待合室みたいなところでロクくんと分かれて女湯へ。
おお〜っ!めっちゃ銭湯!
あはは、ちゃんと富士山が描いてあるし、でもこの富士山何で赤いんだろうね?
「はぁ〜いいお湯ぅぅ〜」
近所のおばちゃん達と一緒に広々とした湯船に浸かり身体を思い切り伸ばしてみる。
たまにはこういうのもいいよね。
お風呂から上がって待合室に出るとロクくんがマッサージチェアーに座り気持ち良さそうに目を閉じていた。丁度隣が空いていたので私も一緒になってやってみる。
うははっ、これは……気持ちいい。
お風呂上がりで火照った身体に扇風機の風があたり全身をマッサージ。
「あっ……ん、んふっ……あ……」
「……先生……何喘いでるんですか?恥ずかしい」
「え?いや、だって……あっ、はぅっ」
やれやれといった感じのロクくんはマッサージチェアーから立ち上がって自販機の前へ。
「ぁ、んんっ……んん〜?ひゃっ!」
「はい、コーヒー牛乳」
おおっ!お風呂上がりにコーヒー牛乳!
「よいしょっと、ありがと」
ロクくんに手を引かれて無事快楽の世界から脱出。ちょっと名残り惜しいけど仕方ない。
「腰に手を当てて一気飲み、よね?」
「こそばしてあげますから遠慮なくどうぞ」
「鼻から出すわよ?」
顔を見合わせ笑い腰に手を当ててコーヒー牛乳をゴクゴクと飲み干す。
ぷはぁっ!最高ですなぁ!
「おっさんみたいに飲みましたね」
「……すみません。ちょっと小さいおっさんが出ました」
暖簾をくぐって外に出ると風が冷たくて気持ちいい。
私はロクくんの手をしっかりと握りすぐそこまでの道のりを幸せを噛み締めて歩いた。
この繋いだ手はもう二度と離さないと誓いながら。
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