帰ってきてもいいですか?
あの日、私は引き止める中島先生を振り切ってロクくんの部屋に行き朝まで部屋の前で帰りを待っていた。
でもロクくんは帰って来なかった。
電話をしても電源を切っているようで繋がらず当然メールの返信もこない。
ロクくんを……傷つけてしまった。
私がふらふらしたから。
私がダメダメだったから。
朝日が昇る頃、私は泣き腫らした赤い目をして仕方なく学校へと行った。
職員室では周りの先生方が何事かと気遣ってくれたけど、ちゃんとした返事をする心の余裕もなく授業もまともに出来ず、結局校長先生に早退の許可を得て再びロクくんの部屋へと向かうことにした。
中島先生はそんな私を最後まで引き止めて……優しくしてくれたけど私にはその優しさが苦痛に感じた。
好意は純粋に嬉しいけど大好きなロクくんを傷つけてまで欲しいとは思わない。
もっと前に……最初からそう思えていればこんなことにはならなかったのに。
ロクくんの部屋の前で膝を抱えて帰りを待つ。
季節は春に向かっているけど日が暮れると寒さが増してくる。
8時を回り9時になり10時を過ぎて……今日もロクくんは帰ってこない……と諦めかけた時。
「先生?」
「あ……ロク……くん」
目の前にロクくんが立っていた。
いつもの……あのちょっと冷めた感じのまま。
「ロクくん……ごめんな……さい」
「……とりあえず入ってください」
久しぶりのロクくんの部屋、何一つ変わっていない部屋なのに……
「……で、先生は僕に何を話しに来たんですか?」
「あ……あの……」
ロクくんはそう言ってジッと私の目を見つめる。
言いたいことがたくさんあるのに、謝らないといけないのに、私がロクくんを傷つけてしまったのに。
ぽろぽろと涙が出て言葉が出て来ない。
「ねえ、先生」
「……はい」
「先生は誰のことが好きなんですか?僕ですか?それともこないだの人ですか?」
「ロクくん……です」
「はい、じゃあ問題ないです」
「え?」
「先生は僕が好き。それだけでいいです、僕も昨日はちょっと気が動転してしまいましたが……」
そう言ったロクくんはいつもと同じ笑顔を私に向けてくれた。
「まぁ流石にちょっと腹立ちましたけど先生が僕のことを好きでいてくれるならそれでいいです」
「でも……私ロクくんを傷つけて……勝手に他の人と出かけて……手まで繋いで……」
「うん、別に僕は先生を束縛するつもりなんてありませんし誰と出かけても文句は言いませんよ」
ぽんぽんと頭を撫でてくれるロクくん。
「でも今度からはちゃんと言って下さいね、心配ですから」
「うん……」
「あ、僕が何とも思ってないわけじゃないですからね。人並みに独占欲みたいなのもありますし男の人と出かけるのはちょっとイヤではありますが」
「ロクくん……ごめんなさい」
珍しく饒舌なロクくんは、その後も色々と話してくれた。
「最終的に僕のところに帰って来てくれるならそれでいいんです」
ロクくんはそう言って……本当にいつもと同じ笑顔を見せる。
「ロクく〜ん!ごめんなさ〜い!」
「はいはい、わかりましたからもう泣かなくていいですよ。ね?」
「だって〜うえぇ〜〜ん!」
「はいはい、ね?」
「ひっく、ひっく、うん……」
コチコチと時計の針が進む音と抱きしめてくれているロクくんの鼓動だけが聞こえる。
やっぱり私はロクくんが大好きだ。ロクくんじゃないとダメだ。
口は悪いし、意地悪だしドSで……そんなロクくんの全部が大好きだ。
ここ最近、全然眠れていなかった私はロクくんに会えた嬉しさと泣き疲れたこともあってそのまま眠ってしまった。
翌朝、私が目を覚ますと見慣れた部屋の見慣れたベッドの上だった。
自分の部屋と同じくらい見慣れた天井。
ロクくんはどこかに出かけているみたいで部屋の中に人の気配はしない。
テーブルの上に、ちょっと出てきます。と几帳面な字で書き置きがあった。
枕元に置いてある時計はお昼を回っており、今日が日曜日で学校が休みで良かったと改めて思う。
ロクくんの匂いがする布団をかぶって胸いっぱいに彼を感じてひとりニマニマしてもう一度目を閉じる。
良かった。
本当によかった。
ロクくんが帰ってきたらもう一度ちゃんと謝っておこう。
心配もさせたし、怒らせもしただろう、傷ついてもいるだろうし……
夕方ロクくんが帰ってくるまで私は一日中ロクくんのベッドの上で過ごした。
帰宅したロクくんに微妙な顔で呆れられたのは言うまでもなかった。
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