もう会えないんでしょうか?


 中島先生に告白されてから私はロクくんの部屋に行けないでいた。

 部屋の下までは行ったのに、階段を上がることが出来なかった。

 理由はわかっているし、原因は自分だ。


 それなら中島先生にちゃんと話をして何もなかったことにすればと思ったんだけど、あまりに嬉しそうに私に話しかけてくる中島先生を見ると何も言えなかった。


 そして……


 今私は駅前で中島先生と待ち合わせをしている。


 最近10日程、ロクくんの部屋には行っていない。毎日のように行っていたのに。


 もちろんロクくんから電話やメールはあった。

 電話口で話すロクくんは何も知らないからいたっていつも通り。私もいつも通りだった……はず。


 でも……ここ2、3日はロクくんからの連絡がなくなった。

 大好きな大好きな彼からの連絡が……なくなった。


 罪悪感でいっぱいになる。


 駅前の時計台の下で、どうして私はこんなところにいるんだろう?どうして大好きな彼の元へ行かないんだろうって考える。

 今すぐ行ってしまえば楽になるのに……


 ロクくんはきっと感づいたんだと思う。

 何か、多分、何か違うことに。


 全部が全部自分のせい。


「お待たせしてすみません!待ちましたか?」

「いえ、私もさっき来たばかりですから」


 ありきたりな会話。

 側から見れば年も近いし恋人同士に見えるんだろうか?


「あの……中島先生……」

「いやぁ晴れて良かったです!雨でも降ったらどうしようかと思ってたんですよ」

「中島先生……」

「あっ、紀文です。中島紀文、今日は学校じゃないんですから先生は辞めにしませんか?」

 屈託のない笑顔でそう言って自然に私の手を取る中島先生。


「あ……」

「さぁ行きましょう!」

「……はい」


 今日だけ、今日だけ、ちゃんと話をしてわかってもらおう。私には彼氏がいてその人のことが大好きなんだって。

 心ではそう決めたはずなのに、私は握られた中島先生の手を振りほどくことが出来なかった。



 端的に言えば、非常に楽しいデートだったと思う。

 細かい気配りや私を飽きさせないようにと話を盛り上げてくれたり、きっと本当にいい人なんだろう。

 例えば道路側を私には歩かせないように気を遣ったり、人混みの中では半歩前に出たりと。


 中島先生もきっと、私の気持ちが沈んでいるのには気づいていたはずなのに。


 実際、普通に笑えていた私がいたのは確かだしロクくんと出かけたるのとはまた違った意味で楽しかったように思う。


 私はダメだ。

 ロクくんのことが大好きなのに……こうして中島先生に手を握られていても嫌な気持ちにならない。


 昔、誰かぎ言っていたっけ?

 好きになるよりなられた方が楽だって。


 待ち合わせをした駅前まで帰ってきて中島先生に晩御飯を誘われる。

「せっかくですから、どこか食べに行きませんか?」

「……はい」

「僕としては、相川さんの手作りが一番ですけどね」

「そんな、大したものじゃないですよ?」

 好きな人の手作りが一番じゃないですか、と笑い私の手を引いて歩きだす。


「あの……中島さん……私……!?」

「どうかされましたか?」

 そう声をかけた時、中島先生の肩ごしに……駅の階段の途中で立ち止まっていた……ロクくんと目が合った。


 ロクくんの視線が私から、中島先生へ、そして……繋いだ手に。


「ろ、ロクくんっ!」

 スッと視線を逸らしたロクくんは、踵を返して階段を上っていく。

「相川さんっ!」

「離してっ!ロクくんが!ロクくんっ!」

「相川さん!」


 視界からロクくんが消える。

 大好きな彼が。

 遠くへ行ってしまう。


「中島先生っ!離してくださいっ!ロクくん!!」

「いやです!僕はあなたが好きなんです!あなたでないとダメなんです!」

「ロク……くん……」

 涙で視界が霞んで、頭の中がわけがわからなくて、どうしょうもなくて……


 悲しくて


 情けなくて


 全部全部自分のせいなのに……


「僕は相川さん、あなたが好きだ。あなたが誰を好きだろと関係ない!何回でも言います!僕はあなたが好きです!」

 泣き崩れそうな私を抱きしめてそう宣言する中島先生。

 もう何が何かわからなくて……私はただ泣きじゃくることしか出来なかった。





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