嫉妬してくれますか?
夕暮れが海を赤く染める頃、私とロクくんは海岸沿いのレストランで食事をしている。
夜景が見える席に運良く座れたのでのんびりと食事を楽しみつつ時間を過ごしている。
「綺麗だね」
「はい」
「あれ?そこは"キミの方が綺麗だよ"って言うところじゃ?」
「言わないです。それに先生は綺麗というより可愛いですから」
「ふにゅっ?」
えっとね、ロクくん?そうサラッと言われるとね、恥ずかしいんですけど。
「あれ?先生顔が赤いですよ」
「分かって言ってるでしょ!」
「もちろんです」
イタズラそうに笑うロクくんの顔がまともに見れない。
女心をくすぐるというのか、よく分かっているというのか……惚れた弱みなんだろうけどちょっと悔しい。
レストランの海側の席は全て仕切りがあるためちょっとした個室みたいなのできっとカップルで占められているのだろう。
照明もあえて暗めにしてありムード満点で……
「ロクくん……」
「先生?……欲情したんですか?」
「ちょっと!ムードも何もないわね!」
「先生が言いますか」
言い返せない自分がいるのがなんとも歯がゆいです。
ちゅっ。
ひゃっ!ふ、不意打ちとは卑怯なり……
「ロクくん……そういうのはダメだよぅ」
「ダメでしたか?」
「ううん……いいです」
綺麗な夜景を眺めながら大好きな彼氏と素敵なディナーか……
きっと仕切の向こう側のカップル達も同じような感じなんだろうなぁ。
時間はゆるりと流れていき今日という一日の終わりが近づいてくる。
モールからの帰り道、ロクくんは疲れたのか助手席でウトウトとしていた。
文句の1つも言わずこうして付き合ってくれる最高の彼氏さんを乗せ部屋への道を走っていく。
残念なのは明日が学校だから帰らないとダメなこと。
いっそのことロクくんの部屋に転がり込んでやろうか、なんて考えてしまう。
思えば不思議なものだ。
ほんの数年前は担任と生徒の関係だったし、ロクくんを男性として見るなんて夢にも思っていなかった。
あの日、あの同窓会がなかったら……私が間に合っていたら、ロクくんが遅れてなかったら……私はこの隣で目を閉じている彼を好きになっていたのだろうか?
ううん、きっと好きになっていたに違いない。
あの日じゃなくても私は彼に出会って恋に落ちていたと思う。
「ロクくん……ありがと。大好きだよ」
静かな寝息をたてるロクくんから返事は返ってこないけどいつかその内、大好きって言ってくれるような気がする。
部屋の前に着きしばらくロクくんの寝顔を堪能してからそっと肩を揺らしてロクくんを起こす。
「すみません、寝てましたね」
「ううん、大丈夫」
「今日は楽しかったです、また行きましょうね」
「うん」
階段の下でロクくんに抱きしめてもらい、少し背伸びをして唇を重ねおやすみを言う。
ロクくんは私の車が曲がり角を曲がるまで見送ってくれていた。
うん、愛されてるんじゃない?これは。
因みにこの日の夜は何となく興奮して寝付けなく翌日遅刻して校長先生にこってりと叱られた。
とほほ……
明けて翌週。
今日も変わらず学校で教鞭をとり一日が終わる。
部活の顧問をしている先生方は授業が終われば部活の時間である。
当然ながら私は何もしていないのでサッサと帰宅するのだが……
今、私は何故か職員室のとなりにある休憩室で体育の中島先生とさし向かいで話をしている。
今日もロクくんのお部屋に直行するつもりだったんだけど……
「それで……どうでしょうか?」
「えっと、どうって言われましても……」
「来週でも再来週でも、無理でしたら来月でもいいんです!」
「あの……」
帰り際に呼び止められて中島先生から大事な話があるって言われ来てみると……まぁ所謂デートのお誘いだった。
速攻で断ったのだけど、中島先生は中々諦めてくれずこうして口説かれている。
ここ……学校ですよ?
「相川先生にお付き合いしている方がいるのはかまわないんです。それでも……僕は相川先生が……好きなんです!」
「…………」
「お願いします!僕にもチャンスを下さい!」
テーブルに額がつくくらいに頭を下げて頼む中島先生。
生徒にも親にも人気のある、多分うちの学校で一番のイケメン教師。
爽やかで人当たりが良くて……きっとこの上ないくらい優しかったりするんだろう。
そんな人からこれだけストレートに想いをぶつけられて私は断ることが出来なかった。
私はロクくんが好きだ。愛してるって言ってもいいくらい大好きだ。
でも……ロクくんはどうなんだろう?
そんな考えが一瞬頭をよぎり、私は一緒に出かけることをOKしてしまった。
私が他の男の人と出かけたらロクくんは何て思うだろう?嫉妬してくれるだろうか?
それともいつものように、ああ、そうですかって言うんだろうか。
この日、私はロクくんの部屋には行かなかった。
ううん、行けなかったんだ。
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