お休みにどこか遊びに行きませんか?



 冬休みも終わり学校が始まり平常運転に戻ったある日の帰り道。


 私は今日の晩御飯を何にしようかと商店街を歩いていた。


 ロクくんは何食べたいかなぁ?

 昨日は生姜焼きだったし一昨日はパスタだし……


「相川先生!」


 いっそのこと私を食べてくれたらいいんだけどなぁ。


「先生!相川先生!」


 今日は先生を食べたいです。な〜んて、うへへへ〜。


「せんせ〜相川先生〜?」


 仕方ない子ね、ほら好きなだけ食べなさい。でも……ちゃんと全部食べてね。

 みたいな〜!

 きゃあ〜っ!恥ずかし〜!


「先生!」

 急に肩を掴まれて我に返る。

「え?え?あ、中島先生?」

「さっきからずっと声掛けてたんですけど……」

 中島先生は同じ学校の体育の先生で私より5つ下のイケメンマッチョだ。

 生徒にも人気があって人当たりもよく面倒見もいい。

 そして何故かやたらと私に話しかけてくる。


「今お帰りですか?」

「はい、中島先生もですか?」

「ええ、ちょっと生徒の相談に乗ってたらこんな時間になりまして」

「ふふっ中島先生は生徒に人気がありますものね」

 爽やかな笑顔でそういう中島先生を見て、多分私にロクくんという彼氏がいなければポーッとなっただろうと思う。


 ならないけどね。


「お買い物ですか?」

「はい、今日の晩御飯を何にしようかなぁって」

「ちゃんと自炊されてるんですね」

「あはは、一時期はしてなかったですけど最近はちゃんとしてますよ」

 離婚した後くらいは何もやる気が起きなかったから外食ばかりの時期があった。

「あ、すみません。無神経でした」

「大丈夫ですよ。もう過去のことですから」

「そうですか……しかし相川先生のように可愛い方と別れるなんて信じられないです」

「ふふふ、褒めても何も出ませんよ?」

「え、い、いや、僕はその、本当にそう思ってます」


 真っ直ぐに私を見つめて話をする中島先生。


 あ〜確かにこれは人気があるはずだ。

 生徒にしろ保護者にしろ、コロっといく笑顔だ。


 ま、私には愛しのロクくんがいるから平気だけど。


「今日はお魚にしようかなぁ〜」

 丁度いい具合に魚屋さんの前を通りかかったので今日の晩御飯は魚にすることに決めた。

「晩御飯は魚ですか?」

「はい、そうしようかと……えっと、これとこれ、あっこれもお願いします」


 何種類か買って後でロクくんにどれが食べたいか聞いてみよっと。


「沢山買うんですね?」

「え?ああ、2人分ですから」

「2人分……ですか?」

「帰ってどれが食べたいか聞いてみようと思って」

「…………」

「中島先生?」

「あ、すみません。ボーっとしてしまって」

 中島先生は急に黙ってしまい何か考えているみたい。


「あ、私はこっちですのでまた明日ですね」

「あ、あの……」

「はい?」

「あ、いえ……何でも……ありません。はい、また、明日です……ね」

 何故かしょんぼりとしてしまった中島先生とわかれ愛しの我が家(仮)へと帰る。



「ただいま〜!」

「おかえりなさい」

「ロクく〜ん!」

「わっ!はいはい、よしよし」

 すっかり慣れたのか動揺もしなければ以前みたいに避けたりもしない。

 ぽふっと抱きとめてくれて頭を撫でてくれる。


 えへへ〜撫でられちゃった。


 ちゅっ。


 はい、本日のちゅう頂きました!


「はい!ロクくん、今日の晩御飯はお魚さんですよーどれがいい?」

「……先生、何でまたこんなカラフルなのばっかりなんですか?」

「んん?可愛いでしょ?」

「選ぶ基準がちょっとおかしくないですか?」

「…………?」

「何、可愛く小首を傾げてるんですか……」


 え?だって?可愛いでしょ?


 ため息をつきつつもロクくんはじゃあこれでと選んでくれ私はいそいそと服を脱ぐ。

 もうすっかり慣れてしまったのか、ツッコミすらないのがちょっと悲しい。

 慣れって怖いよね……



「「ごちそう様でした」」


「案外ちゃんと食べれましたね」

「あのね、当たり前じゃない。魚屋さんで買ってきたんだから」

「先生のことだから熱帯魚屋さんとかで買ってきそうですから」

「……バカにしてない?」

「いえ、全く、全然」

 食後のお茶を飲みながらのそんな会話にも若干の幸せを感じてしまう。

 ロクくんの肩にもたれて、付けっぱなしのテレビをボーっと眺める。


 時折思い出したように頭を撫でてくれる手が暖かくて目を細め小さな幸せを噛みしめる。


「あ、ロクくん。今度の休みにどこか遊びに行かない?」

「かまいませんが、どこにです?」

「え?まだ考えてないよ?」

「何胸張って言ってるんですか、この人は?」

 思いつきだし?休みまでには考えるし。

「ロクくんはどこか行きたいところある?」

「特にないですかね。元々それ程出歩く方ではないですから」

「そっか」

「先生は?……ラブホテルはなしですよ」

「最近ロクくんって私の扱いが雑じゃない?」

「いえいえ、そんなことないです」


 いくら私でもわざわざ休みの予定を聞いておいてラブホテルは……アリかも。


「今ラブホテルもアリかもって思ったでしょ?」

「〜〜!な、何故にっ!」

「にやけてましたから何となくです」

 ああ……教師としての威厳が……

 ま、はじめからないからいいや。


「とりあえず休みまでには考えとくね」

「はい、先生にお任せします」


 よぉし、どこに遊びに行こうかなぁ〜







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