学校でも同じなんですか?



 偶然出会ったロクくんの友達くん達と私は神社の境内の甘味処でおしるこを食べている。


「へえ〜相川さんは学校の先生なんですか」

「うん、ロクくんが中学の時の担任だね」

 如何にも興味津々と言った感じで訪ねてくるのは、田中広重くん。

 ロクくんとは気の合う友人らしく、彼もゲーマーだそうだ。


「教師と生徒の恋……ですか。危険な香りが堪らないですね」

 くいっと眼鏡を中指で押し上げニヒルに笑うのは、檜山海斗くん。

 ロクくんの高校の生徒会副会長だそうだ。

 銀縁眼鏡がバシッと似合う優等生って感じだけど彼もまたゲーマーらしい。


 まさか……2人共世界チャンピオンとか言わないよね?


 ロクくんはあまり学校でのことは言わないのでこうして話を聞けるのは私にしても新鮮で楽しい。


「じゃあ相川さんはロクにベタ惚れなわけだ?」

「見たらわかりそうなものだかね」

「いいなぁ〜俺も相川さんみたいな可愛い彼女が欲しいよ」

「キミは二次元の人だろう?」

「リアルでも欲しいんだよっ!」

「田中君は二次元で我慢しといてよ」

「おいっ!ロクまでなんだよ!」


 ははは、と笑い合う3人を見て私もつられて笑ってしまう。

 こうして見ればいくらいつも落ち着いて見えてもロクくんも高校生なんだなぁと実感する。


「学校でのロクくんてどんな感じなのかな?」

「学校でですか?どうって……なぁ?」

「こんなもんだよな?」

「こんなもんですよ」

 3人で顔を見合わせて首をひねっている。


 ああ、なるほど。

 私といる時と変わらないわけね。


「強いて言うなら"普通"だよな」

「普通ですね、普通」

「目立たず騒がず、かといって空気なわけでもなく」

「そうそう、良くも悪くも真ん中って感じ」

 田中くんと檜山くんがそう言ってロクくんを見るけどロクくんは知らん顔をしてぜんざいを食べている。


「それくらいがちょうどいいんですよ。下手に目立つとロクなことがないですから」

「ロクだけにな」


「………」

「…………」

「……………」


「おいっ!かわいそうな奴を見るみたいな目は何だよっ!あ、相川さんまでっ!」

 田中くんが盛大にスベッたのを何も言わずぜんざい片手にジトッと見つめる。


 ぽんぽんと肩を叩き、うんうん頷く檜山くん。


「うぐっ!その妙な優しさがつらいぜ!」

 田中くん!頑張れ!



「じゃあなロク」

「また学校で」

 神社を出たところで2人と別れる。

「ええ、また」

「ばいばい!田中くん、檜山くん」


 カランコロンと下駄を鳴らして来た道を2人で帰る。


「ロクくんは学校でもやっぱりロクくんなんだね」

「何ですか?それ」

「ん〜?変に気取ってなくて、ロクくんらしくて嬉しかったよ」

「僕は僕ですから。先生が担任の時からこんな感じだったでしょう?」


 ロクくんにそう言われても、正直中学校の頃のロクくんってあまり印象がない。

 大人しくてあまり目立たない……たしかに真ん中って感じだった。


「そうだね、うん、こんな感じだった」

 えへへ〜とロクくんの腕に抱きつく私を不思議そうな顔で見るロクくん。

「何ですか?気持ち悪い笑い方をして」

「何でもないよ〜」


 貸し衣裳屋さんに着物を返し普段着に着替えて晩御飯の材料を買いにスーパーへ。

 昨日今日と冷え込みがきついので、お鍋にしようということであれこれと材料を買い込み我が愛の巣へ。


「先生、頼みますからスーパーでスッポンを探したりとかお鍋に鰻やら怪しげなものを入れようとするのはやめて下さい」

「……夜のお供にうなぎパイ?」

「ちょっと違います」

「赤マム……」

「いらないです」

「ちっ」

「何舌打ちしてるんですか……」


 今日こそはと意気込んだけど、どうも今日も空振りに終わる気配がプンプンとしてる。


 いや、いいんですよ?別に。そんなガツガツとしたいわけじゃないんですから。ええ、ええ、ホントに……でもね、ちょっとくらいいいじゃない?減るもんじゃないし……


「先生?先生?豆腐を箸でザクザク突き刺すのは……どうかと思いますが」

「……え?」

「え?じゃないですよ。怖いですって」

「あれ?お豆腐が粉々に?」


 苦笑するロクくんと笑ってごまかす私と。


 今日も期待した出来事は起こらなかったけど、2人でつつくお鍋は幸せの味がした。










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