着物であ〜れ〜はロマンじゃないですか?


「ロクく〜ん!初詣いこ〜!」

「初詣ですか?」

「うん!行こっ?」

 三が日も2日目、明日でおやすみは終わりだし初詣に行くなら今日のほうがいい。

 最終日はお部屋でまったりゆっくりしたいし……天気予報も雨だったし。


 最近すっかりロクくんの部屋に入り浸っている私は後ろからロクくんの首に抱きついて、はふはふと頬ずりをしながらお願いする。


「行かないって言っても、もう振袖頼んじゃったんだけどね!」

「じゃあ、行かないです」

 ロクくんが真顔でそう告げる。

「ふぇっ!は、はつもうで……」

「冗談です、冗談」

「ろ、ロクくんの冗談は冗談に聞こえないんだよぅ」

 つい涙目になってしまったじゃないか……


「昨日の晩にコソコソと電話してたのはそれだったんですね」

「あ、あれ?気づいてたの?」

「当たり前じゃないですか、大して広くもない部屋なんですから」

「あははは」

 昨夜の内に知り合いに電話して着物を頼んでおいたのだ。

「そうだ!ロクくん!」

「どうしたんですか?急に」

 出かける準備をして玄関へと向かうロクくんに私は思い付いた重要な事を伝える。


「あのね……着物着るじゃない?」

「はい、そうですね」

「ということは……」

「何です?」

「帯引っ張って、あ〜れ〜って出来るんだよっ!!よいではないか!よいではないかって!」

 こんな時でしか出来ないロマンだよねっ!ね!


「…………」


 あれ?


「……アホですか?」

「だ、誰かアホよ!」

「先生、着付け出来るんですか?」

「……出来ないけど?」

「よいではないかの後始末は?」

「え〜っと……ロクくんが?」

 はあっと最大級のため息をついて、さっさと玄関を出ていくロクくん。


 ちょいちょいっ!ロマンでしょ?悪代官的なシチュエーション!

 そ、それに、着物って下履いてないんだよ?

 あ〜れ〜のあとは、お楽しみタイムだよ?

 あんなことやこんなことされたりして……うへへへ。


 あれ?ロクくん?


 妄想から覚めると、パタンと悲しげな音を立てて玄関が閉まったところだった。


 あれれ?


「ロクく〜ん!置いてかないでぇ〜!」




「ホント、ブレないというか何というか」

「えへへ〜褒めても何も出ない……出るよ?出すよ?色々出すから!」

「褒めてないですから」

 初詣に向かう近所の貸衣装屋さんで着物を着させてもらいルンルン気分で神社へと向かう。


 からんころん、と下駄を鳴らして。


「ねえねえ、どう?似合ってる?可愛い?」

 藍色を基調にした少しシックな感じの着物をひらひらとさせてロクくんに見てもらう。


「はい、似合ってますよ」

「そ、そう?」

「ええ、馬子にも衣装って言いますから」

「……ロクくん?それ違うくない?」

「ふふっ冗談です。すごく似合ってまし可愛いですよ」

 柔らかく笑いロクくんは私の手を取って神社への道を歩き始める。

 ぎゅっと握った手は冬の寒さなんか気にならないほど暖かくてほっとする。


 そうこうしている内に神社へ到着する。初詣に訪れる人で賑わっている通りをロクくんは私の手を引いて歩いていく。

 慣れない下駄を履いている私のペースに合わせて。


 ああん、こ〜いうところがカッコいいのよね!


 隣を歩くロクくんをちょっと見上げて改めて私の彼氏さんは最高だなと頷く。


「先にお詣りを済ませましょうか」

「うん!」

 2人並んで、ガランガランと大きな鈴を鳴らし手を合わせる。


(ロクくんとずっと一緒にいられますように……あ、後早くエッチがしたいです。……出来ればすぐにでも……えっと今日とか?)

 ちらっとロクくんを見ればお祈りは済ませたのか、ばっちりと目が合った。

 うわっ!ちょっと恥ずかしいぞ。


 境内を降り辺りを散策しながら聞いてみる。


「ろ、ロクくん何をお願いしたのかな?」

「そうですね……先生と一緒……多分違いますかね」

「くっ、何か見透かされているみたいでイヤなんですけど?」

「どうせ先生のことですから、早くエッチなことがしたいとかじゃないんですか?」

「な、な、ななな?」

 エスパーなの?ロクくんはっ!

 どうしてわかるのかしら?


「はぁ……そんなにしたいんですか?」

 あ、あの、そんなマジマジと正面から言われると返答に詰まってしまうよ?

「べ、別にそんなことないけど……」

「けど?」

「あ、あの、その、ね?好きな人に抱かれたい……じゃない?」


 うわぁっ!何これ?何の羞恥プレイよ!

 きゃあ〜恥ずかしいっ!


「前にも言いましたけど僕としては一緒にいられるだけで今のところ満足なんですけどね」

「う、うん。それはわかってるけど……」

「心配しなくてもそのうちちゃんと襲ってあげますから」

「襲わなくても……普通でいいんだよ?普通で」

 からんからんと下駄の音をさせ神社の境内で、罰当たりな会話をする私とロクくん。


 すると……


「あれ?ロクじゃん?」

「ん?ああ、田中君に檜山先輩」

 声をかけてきたのはロクと同じくらいの男の子だった。

「ロクも初詣か?」

「ええ、彼女が行きたいって言うものですから」


 彼女が行きたい……彼女……かの……


 ほわぁ……ロクくんの友達に彼女って紹介されちゃいました。えへへへ〜。


「あ、こっちは同じクラスの田中君でこちらが先輩の檜山さんです」

「あ、はじめまして、ロクくんの"彼女"の相川杏香です」

 友達くんに挨拶をすると、え?って顔をしている。


「あ、はじめまして、ロクと同じクラスの田中って言います」「檜山です」

 うんうん、若いのに礼儀正しいことで。


「おい、ロク。可愛い感じの人だけど……随分年上じゃね?」

「そうですね、でも気にはなりませんから」

「はあ〜っ、相変わらずロクはすげぇな」


 ……可愛い感じの人……てへへっ。

 中々みる目がある友達くんだね!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る