テレビに映ってるけどいいんですか?
「先生、起きてください。置いていきますよ」
「う〜ん、あと5分〜」
「そう言ってからもう1時間ですって、先生」
「うにゃあ〜まだ眠いよぉ〜」
眠気まなこをこすりこすりベッドから這い出してしぶしぶ顔を洗いに行く。
ひえぇ〜水が冷たいよ〜。
「電車の時間に遅れますからちょっと急いでくださいね」
「ふあ〜い」
しゃこしゃこと歯磨きをしながらボサボサの髪をペッペと整える。
「多分大丈夫だと思いますけど、テレビの中継も入りますからそのつもりで」
「は?」
「ですから、ネットで生中継するんですよ」
「え〜っ、聞いてないしっ!」
「言ってませんから」
「言っといてよっ!」
慌てて髪をセットし直してダッシュでお化粧をする。
「まぁ観客席はあまり映らないとは思いますけどね」
「……どっちなのよぅっ!」
「さあ?どっちでしょうか?」
わかってて楽しんでいるロクくんはイジワルそうに笑っている。
「それよりホント時間がないので急いでくださいね」
電車に揺られること1時間くらいで目的地に到着する。
港町とはまた違ったごちゃごちゃとした街が広がっていて高層ビル群がずらりと立ち並ぶ。
駅を出てすぐのターミナルでタクシーを拾って会場へと向かう。
「うわぁまるで東京みたいだね」
「そうですか?こっちのほうがちょっとごちゃごちゃとしてますよ」
「そうなの?」
「はい、でもそれが面白いところでもあるんですが」
タクシーでしばらくすると会場となる建物に到着する。
二階建てのかなり広い建物で周りは人で溢れていた。
「す、すごい人だね」
「はい、一応全国大会の決勝トーナメントですから」
子供からお年寄りまで多種多様な人が集まっていて異様な盛り上がりを見せている。
「じゃあ行きましょうか」
「う、うん」
ロクくんはタクシーを降りてすたすたと会場へと歩いていく。もちろん私の手をしっかりと握って。
会場の入り口では入場する人達の列が出来ていたけどロクくんはその脇を通って1番前まで行って係の人に話しかける。
「いいですか?」
「ん?入場はちゃんと並ばないと……あっ!」
「すみません、ちょっと遅れました」
「六様、ご連絡は受けておりますので……そちらの方は?」
「僕の連れです、かまいませんよね?」
「はい、もちろんです」
係の人が私に関係者パスを渡しながら中へと入れてくれる。
後ろの方では、ザワザワと列に並んでる人達がこちらを見て何か言っているのが聞こえる。
「おい!あれってもしかして……」
「今日解説しに来るって言ってたけど本物かよ?」
「マジかよ……あれが……」
「「「世界チャンピオンか……」」」
会場内の廊下を歩いていくロクくんと私。
すれ違う人達が何故かやたらとロクくんに頭を下げているのが不思議だった。
「ねえ?ロクくんってもしかしてすごい人なの?」
「いえ、それ程でもないですよ」
「え?だって大人の人まで頭下げて通っていくよ?」
「まぁ関係者の人達だからじゃないですか」
「でも……」
そうして話をしている間にロクくんの名前が書いてある部屋に到着する。
「じゃあ出番まで待っときましょうか」
「う、うん」
控室には大きなモニターが設置してあり今の会場内の様子が映し出されていた。
「ホントにすごい人なんだね」
ぎっしりと詰め掛けた人、人、人。
「全国大会ですからね」
モニターを眺めながらテーブルの上の煎餅をぱりっ食べるロクくん。
「ほら、始まりますよ」
そう言ってモニターを指す。
行われているのは私でも知っているくらいの有名なゲームだった。
シリーズで10年以上も続いている超有名な格闘ゲーム。私も昔ちょっとだけ遊んだことがある。
「ふ〜ん、まあまあですね」
モニターを眺めて少しつまらなそうに呟くロクくん。
「まあまあ?なの?」
「はい、まあまあです。今日の大会にはプロは参加してませんから」
今日の大会で優勝すればプロのライセンスが発行されるらしく参加している人達は必死の形相だ。
「さてと、決勝は僕も解説に入りますから先生はどうします?ついてきますか?」
「え?着いて行っていいの?」
「いいんじゃないですか?たぶん」
「まさか……私に解説しろなんて言わないわよね」
「そんなことは言いませんよ」
「うん、じゃあいく!」
こうして私はロクくんに着いて会場に行ったんだけど……
「わあああぁぁぁ〜〜!!!」
会場に入った途端の大歓声にちょっとちびりそうになり、会場のバカでかいモニターに映ったロクくんに見惚れて……
そして……何故か私までデカデカとモニターに映し出されて?
「はい?何故に?」
隣ではロクくんが珍しく爆笑していたり。
「ほら、ちょっと手でも振ってみて下さいよ」
言われたとおりちょっと手を振ってみたりすると……
「わああぁぁぁぁ〜〜!!!」
「ひゃっ!」
何故か大歓声を浴びたりして。
「あはは、もうみんな何が何かわかってませんから」
そう言ってロクくんは解説席に座って、私はちょっと離れた席に座らせてもらった。
びっくりしたぁ、まるで芸能人にでもなったみたいだったよぅ。
席からロクくんが解説しているのをボーっと見つめる。
えへへ〜私の彼氏さんは、かっこいいなぁ。
ロクくんが何か言うたびに歓声が上がる。
そして何故かモニターに映るマヌケヅラの私。
で、ロクくんと一緒に解説している人が爆笑している。
おいっ!これ絶対ワザとでしょ?
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