クリスマスは一緒に過ごしませんか?


 ルームサービスをつまみながらロクくんは、明日からの予定を教えてくれる。

 大会があるといってもロクくんが参加するわけではないらしく、大会の優勝者とエキシビションマッチをするらしい。

 日程は明後日から三日間でロクくんは、解説者として会場に行くそうだ。

 解説者って……めっちゃ上からな感じなんですけど?ロクくんてそんなにすごいんだろうか?


 まぁそれなりにそこそこですよ、といつもと何ら変わらない返事を返してくれるロクくん。


「じゃあ明日は一日中デートが出来るんだねっ!」

「そうですね、特に何も予定はないですから」

「今日もこれから予定はないんだよね?」

「はい、ないですね……って何をしてるんですか?」

「え?せっかくだからハダカエプロンを……」


 盛大なため息をつくロクくんを他所にカバンをごそと漁る。


「先生……もうしばらくしたら晩御飯食べに行きますけどその格好で行くんですか?」


 カバンを漁る手がぴたっと止まる。


「あははは、やだなぁ〜ロクくん。冗談よ、冗談。あははは……はぁ」

「そんなに露骨に落ち込まないで下さいよ」

「え〜だって勝負パンツも新しくしたのにぃ〜」

「知りませんよ、そんなこと」

「じゃあ〜ん!どう?エッチっぽくない?ね?ね?」

「はいはい、そうですね」

「あれ?お気に召さない?じゃあこっちは?ほら、これとか?」

「何枚持ってきたんですか……」

「えへへ〜ひ・み・つ」

「一生秘密にしといてください」


 くっ、相変わらずクールというか冷たいというか。

 いいもんね、1週間も一緒にいるんだから絶対に悩殺してやるんだから!


「じゃあ、行きますか?」

「ちょっと待って!服着るから!」

「はぁ……僕の中にあった先生のイメージはズタボロですよ」

「イメージねぇ、ロクくんの中の私は……よっと、わっ!どんなイメージだったの?」

「少なくともズボンを履きながらヨロヨロするイメージはなかったですね」

 そんなことを言いながらでもそっと手を出して支えてくれるところが……ロクくんなんだよね。


「学校でのイメージだよね?」

「そうですね、先生ってもっと落ち着いた感じの大人な人だと思ってましたから」

「ほら、当時は結婚してたから」

 ホテルの廊下を歩きながらそんな話をする。

「結婚してるときってやっぱり違ったんですか?」

「う〜ん、どうだろうね?違ったんじゃないかな」

「そうですか」

「でも、今の方が私は幸せだよ?」


 ほんの一瞬、ロクくんの表情が陰ったようにみえて。


「本当です?」

「うん」

「そうですか……じゃあいいです」

 チラッと私を見て何もなかったようにエレベーターに乗るロクくん。


 ちゃんとわかってるんだよ、ロクくん。

 大丈夫、私はロクくんが好き、大好きだからね。


 エレベーターの中、そぉっと寄り添ってもロクくんはイヤがったりはしなかった。

 最上階のレストランに着くまでのほんのすこしの時間、ロクくんは珍しくちょっと照れたような顔をして唇を重ねてくれた。


 レストランに着くまでにお腹いっぱいになりそうなんですけど?


 最上階のレストランはそれはもうびっくりするくらいの高級そうな所だった。

 ロクくんは軽く手をあげてスタスタと入っていく、で私はその後をキョドリながらついて行ったのだった。


 窓際の夜景の見える席をリザーブしていたみたいでテーブルにはロクくんの名前の書いた札が置いてあった。


 おいおい、高校生だろ?どこのボンボンだよぅ?


 なんてひとりツッコミを入れつつ席に座って店員さんにあれこれと話しているロクくんを見つめる。

 いつも通りでどこか冷めた表情をして淡々と注文をしている。


「ロクくんて何者?」

「先生の元生徒ですよ」

「そうじゃなくて、よくこんなお店で堂々としてられるよね?」

「そうですかね?近所のラーメン屋と変わらないですよ」

「いやいや、変わるでしょ!」

「初めて来たときは流石にちょっと緊張しましたけどいい加減慣れましたよ」

「高級レストランとラーメン屋を一緒にしちゃダメでしょうよ」

「似たようなものですよ」

 はぁ、ロクくんの感覚がちょっとわからないや。


 出てきた料理は確かに美味しかった。美味しかったんだけど……


「ナントカカントカ風のナントカカントカ添え?ローマ風?ミラノ風?」

「どうかしましたか?先生」

「ナントカ風とナントカ添えとかナントカソースを、とかいまいちわかんない」

「美味しかったらいいんじゃないですか?」

「それはそうなんだけど……」


 大皿に、ちまっとして盛られた料理を食べながら、私はロクくんとそんな話をしていてふと疑問に思ったことがあった。


「そういえば1週間こっちにいるんだよね?」

「はい、そうですね」

「今日でしょ?明日はデートで……三日間は大阪だよね?あと2日はどうするの?」

「あれ?先生気がつかないんですか?」

「気がつかない?」

「はい、残りの2日は何日と何日です?」

「えっと……24日と……25日……」



 24日と25日……


 あ〜っ!クリスマスイブとクリスマスだっ!

 もしかしてロクくん……


「まぁそういうです」

「りょくぐ〜ん〜」

「いちいち泣かないでください」

「だっでぇ〜」


 私の彼氏さんはちゃんと考えてくれてるんだ……私のことを。


 レストランを出て部屋へと戻る間、私はべったりとロクくんにしがみついていた。



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