一緒についていってもいいですか?


 世間はすっかりクリスマス気分で、学校も冬休みに入った。

 当然私もがっつりとお休みをいただいてロクくんと甘々な……のはずだったんだけど。


「来週から1週間くらい出かけますからいませんよ」

「ええ〜っ!何で!どこに!どうして!」

「ちょっとe-Sportsの大会が関西でありまして、そっちの方に行きますから」

「ふえ〜っ、そ、そんなぁ〜」

 天国から地獄とはまさにこのことじゃないだろうか。


 せっかくのお休みなのに……


「だから、まぁその、良ければですけど先生も一緒にどうですか?」


 甘々なお休みが……


「ずっとずっと大会がある訳でもありませんから、ちょっとは観光出来ると思いますよ」


 イチャイチャラブラブうふふ〜なお休みが……


「先生?聞いてます?」

「ロクきゅ〜ん!行かないでぇ〜」

「はぁ、全く聞いてなかったんですね……」


 グダグダと大泣きした私にロクくんはさっき話したことをもう一度話してくれた。


 ロクくんと旅行……

 ロクくんとお泊り……

 ロクくんと……ぐへへへ


「行くっ!すぐ行くっ!さぁ!行きましょう!」

「まだですから。落ち着いて下さい」

「あ、ああ、そうね、うん、すーはー。すーはー」

「怖いですって、目が血走ってますから」

「うん、大丈夫。ひっひっふぅー」

「全く……」

 呆れ顔で私を見るロクくんにビシッとサムズアップしておく。


「じゃあ明々後日の朝11時に駅で待ち合わせということでいいですか?」

「うん、荷物とかはどうするの?」

「僕はもう向こうに送ってますから手ぶらですよ」

「じゃあ私も送っとく!」

「そうですか?えっと……住所はここですから間違えないで下さいね」

「うん、わかった」



 こうして冬休み、私はロクくんと関西の方に1週間くらい旅行に行くことになった。

 その日の夜はまるで若い頃、初めて彼氏のところに泊まりに行ったときのようにワクワクとドキドキで中々寝付けなかった。


 そして……当日。

 待ち合わせの時間よりかなり早く着いた私はそわそわとしつつロクくんが来るのを今か今かと待っていた。

 こうやって彼氏を待っている時間のなんて幸せなことだろうか、腕時計を何度も見返して辺りをキョロキョロと見渡して……


「あっ!」

 見渡していた私の視界に愛しのロクくんが映る。

 黒の上下にロングコートを羽織って少し眠そうな顔をして歩いてくる。

 背も高いしルックスもはっきり言っていいロクくんを周りの女の子達がちらちらと見ている。


 ふふ〜ん、私の彼氏さんなんだからね〜。

 ちょっと気分良くなった私が手を振るとロクくんも、まぁいつものように、めんどくさそうに手を振ってくれる。


「おはようございます、先生」

「うん、おはよ」

 でへへ〜とロクくんに正面から抱きつく。

 そして、はいはいと引き剥がされる。


「ロクくんのケチっ、減るもんでもないのに」

「ケチで結構です、ほら行きますよ」

 スタスタと改札に向かって歩いていくロクくんを追って私も小走りについていった。


 私達の住むこの街から電車で5時間程、途中に乗り換えがあったり駅弁を食べたり2人でうたた寝をしたりと夕方には泊まる予定の神戸に到着した。


「大会ってここであるの?」

「いえ、大阪ですけど泊まるのはこっちですね」

「ふ〜ん」

 北は山があり南は海に面した綺麗な街だ。

 ロクくんは慣れた感じで改札を抜けて通りを歩いていく。

 海側には商業施設が多くあり浜辺には観覧車が見える。


「ロクくん!観覧車があるよ!」

「ハーバーランドの観覧車ですね、時間があれば乗りますか?」

「うん、乗るっ!」

 お洒落な街中を抜けて着いたのは某有名ホテルだった。

「え?ロクくん、ここ?」

「はい、ああ、心配しなくても料金は会社持ちですから」

「ふぇ〜っ」

「なんて顔してるんですか、ほら行きますよ」

 ホテルのロビーもきらっきらのピカピカで場違い感がハンパない。

 ロクくんはここでも慣れた感じでフロントで鍵を貰っている。とても高校生とは思えない落ち着き具合でちょっと先生としては立つ瀬がないというか何というかで。



「うわぁ〜!すごい眺めだね〜」

「そうですね、喜んでもらえましたか?」

「うん!うん!うわぁ〜」

 泊まる部屋は最上階近くの海側に面した部屋で窓からは綺麗な海が一望出来る。

 窓に張り付いて外を眺める私を見て笑うロクくんはフロントに電話をしてルームサービスを頼んでいる。


「お腹空いてません?」

「ん〜ちょっと空いたかな」

「適当につまめるのを頼みましたから」

「……ロクくんってこういうとこよく来るの?」

「そうですね、年に何回かは来ますね」

「それは大会で?」

「ええ、そうです」


 届いたルームサービスをテーブルに置いて当然のような顔のロクくん。


 もしかしてロクくんってすごい人なんじゃないかと思ってしまう私だった。

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