こんなに気持ちいいことってありますか?



 晩御飯を食べ終わって食後のコーヒーを飲みながら静かな時間を過ごしている。


 いつもなら私があれこれ言ったりやったりして最終的には、ぽいっと玄関に放り出されるくらいの時間だ。


「えっと、お、お風呂入ってくるね?」

 ちょっと吃りつつ立ち上がった私を見てロクくんが、クスッと笑う。

「ちょ、ちょっと何で笑うのよ?」

「だって先生、なんだか緊張してるみたいで」

「そ、そりゃ私だって緊張するわよ、す、好きな人の部屋に泊まるんだから」

 まるで初めての時みたいに、ドキドキが止まらない。

「そうですか」

「そうですよ〜っ」

「じゃあ、お風呂一緒に入りますか?」

「えっ?ええっ!い、いいの?」

「はい、かまいませんよ、僕は」

 ロクくんは、いつもと変わらない顔をしてそう言って私の手をとった。


「わ、え?ちょ、ちょっとまだ心の準備がっ!」

「知りません」

「きゃっ!ろ、ロクくん?あの、ね?ちょっと待って……」

「待ちません」

「あ、あん、ひゃっ!」

 スタスタとお風呂場に連れていかれた私は、ロクくんにエプロンを外されて、ぎゅっと抱きしめられ後ろ手にホックを外され……

「なんか、ロクくん慣れてる感じがする……」

「先生ほどじゃないです」

「あっ……」

 優しいキスを首筋にされて思わず吐息が漏れてしまう。


 ロクくんて……エッチだ……

 それに……すごく上手っていうか……優しい。



 ちゃぷん。

 と2人で湯船に浸かる。

 えっと……あの……えへへへ

 結構広い湯船は2人で入るとちょうどいい感じで密着できる。

 後ろからロクくんに抱きしめてもらい幸せ満面な私。


「ロクく〜ん、しゅき〜」

 顔だけ振り向いて唇を突き出すと、ロクくんもそれに応えてくれる。

 頭の芯が痺れるような、蕩けるよな甘いキスの味。

「ん、んふっ、あ……はぁっ」

 ロクくんのキスは危ない。

 すごく優しくて、そぉっと舌を絡め取るキス。


 そんな感じで私は湯船の中でロクくんに思い切り甘えさせてもらって。


「のぼせそうなのでそろそろ上がりませんか?」

「う、う〜ん」

 はい、もうばっちりのぼせてます。色んな意味で。


 ちょっとふらつく足取りでバスタオルを巻いて部屋へといきベッドに倒れこむ。

 ホント……ちょっと浮かれすぎてのぼせてフラフラする。


「はい、どうぞ」

 ロクくんが隣に座ってキンキンに冷えたお茶を出してくれる。

「ふわぁ〜ありがとう〜」

 冷たいお茶が身体に染み渡る。


 はあ〜っ気持ちいい……


 と、コップをテーブルに置いて私は、ポフッとベッドに再度倒れこんで……


「あれ?先生?」

「…………」

「もしかして寝ちゃいました?」

「…………」

「やれやれ、やっと覚悟を決めたんですけど」

 ほとんど意識の無い中で、何となく頭を撫でてもらっているのがわかる。

「ふふふ、こうして見てると本当に可愛いんですよね。……杏香さんは」

「…………」




「う、う〜ん」

 朝日が眩しくて私は寝返りをうって薄っすらと目を開けて……

「!!!」

 私の顔を覗きこんで優しげな笑みを浮かべたロクくんと目があってしまう。


 あれ?ロクくん?

 え〜っと?


 ……!!!


「おはようございます、先生」

「あ、あ、お、おは……よ?」

 ぼんやりとした頭に昨日の出来事が蘇ってくる。

 デートして、帰ってきてイチャイチャして、一緒にお風呂に入って……


 そのまま寝ちゃったんだ、私。


 ロクくんは私の隣で片肘をついて半身をこちらに向けてクスッと笑う。

「よく寝れましたか?」

「……わかってて言ってるよね?」

「さあ?何のことでしょう?」

「むうぅっ、イジワルだね。ロクくんは」

 どう見てもわかってて言っいるロクくんは、イジワルを言いながらでも優しく頭を撫でてくれる。


「ふぁ……」

 撫でられるとつい気持ちよくて声が出てしまう。

「起こしてくれれば良かったのにぃ〜」

「あまりに気持ち良さそうに寝てましたから起こしたり出来ないですよ、それに」

「それに?」

「それに可愛い寝顔を堪能させて頂きましたから」

「〜〜っっ」


 きゃ〜っ!恥ずかしいっ!

 鼾とか大丈夫だったかしら?アホヅラしてなかったかしら?

 変な寝言とか……


 ふえぇぇ〜っ


 恥ずかしいよぉぉ〜


「普通に可愛いかったですよ、ええ」

「真顔で言わないでぇ〜っ!」

「いいじゃないですか、可愛いって言ってるんですから」

「いや、もう、ちょっとホントごめんなさい。恥ずかしくて死にそうです……」

 シーツを頭からかぶってベッドの上で丸くなる。


 可愛いかったのにと言いながらロクくんはベッドから出ていき紅茶を入れて戻ってくる。


 シーツにくるまってる私の横に座って何やら楽しそうな顔をしてじっと見つめてくる。


「え、えと、何でしょうか?」

「何でもないですよ、見てるだけですから気にしないでください」

「気にしない訳ないじゃないのよぅ」

「気になりますか?」

「イジワルだね、ロクくんは」

「そうですかね?」

 ようやくちょっと気持ちが落ち着いた私はシーツにくるまったまま、もそもそとロクくんの膝の上まで移動する。

「よいしょっと」

 膝の上に頭を乗せて膝枕をしてもらい下から見上げる。


 うん、私の彼氏さんはやっぱりかっこいいや。


 鳶色の瞳はいつも綺麗で、サラサラの髪もちょっと女の子みたいで。


 ゆっくりと近づいてくる顔も……


「え?わっ、ろ、ロク……んんんっ」

 昨日もたくさんした格別に気持ちいいキス。


 私だっていい年だしルックスだって悪くないと思ってる。恋愛経験だってそこそこあるし結婚もしてた。

 だけど、ロクくんは何ていうか特別だ。


 セックスはしてないけど、キスだけでこんなにも気持ちいい。

 好きとか愛してるとかそんなんでもなくて……とにかく気持ちがいい。それだけで、キスだけで感じれる。


 そんな甘くて美味しい朝だった。



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