今日は泊まってもいいですか?


 ロクくんと付き合いだしてから2カ月が過ぎた。

 教師と生徒として過ごした3年間からすればほんのちょっとの時間だけど私にとっては充実した2カ月。


「ロクくん、今日はここで〜す」

「へぇ〜、お洒落なとこですね」

「でしょ?ここはね〜ロールケーキが美味しいんだよ」

 私とロクくんは郊外にあるとある喫茶店に来ていた。

 というのも、日曜日のたびに私が朝ごはん、つまりモーニングを食べにあちこちに連れて行ってあげてるのだ。


 ひとりになってから仕事のない日曜日は決まって外にモーニングを食べに出かけていたからかなりの数の喫茶店に行っているのでその中で美味しかったところにこうしてロクくんと行っているわけ。


「どう?」

「はい、美味しいですね、うん」

「でしょ?」

「でも朝からこれはちょっとヘビーですけどね」

 今日きた喫茶店はロールケーキが有名なんだけど、その……ちょっとサイズが、ね?

「残りはお持ち帰りが出来るから大丈夫なのよ」

「なるほど、だからひとりでも来れるんですね」

「うぐっ、い、今は2人だからいいんだもん」


 流石に2ヶ月も付き合っているとロクくんの性格がだいたいわかってきた。

 可愛い顔して大人しそうに見えるのに、ものすっごく口が悪い。つまりドS。

 あと女性経験は結構あるみたい。始めは照れていたんだけど、どうやら私を担任の先生って意識してたからみたい。

可愛い顔してやることはやってるんだね。うん。


 そのくせたまに妙に優しくしてくれたりするので、どうしょうもない。


 はあ、惚れた弱みと言えばそれまでなんだけど。


 ちょっとキツイかもしれませんね、なんて言いながら美味しそうに食べるロクくんを見つめてそんなことを考える。


「そういえばロクくんの学校は明日と明後日はお休みなんだよね?」

「はい、明日が創立記念日で明後日は祝日ですからね。それがどうかしました?」

「ムフフ〜なんと私も明日明後日と連休を取っちゃいました〜!」

「ああ、そうですか」


 え?何?その、うっす〜い反応は?


「明日も明後日も私おやすみなんだよ?」

「はい」

「おやすみ……」

 ちょっと涙ぐんだ私をロクくんはじっと見つめてボソッと呟く。

「じゃあ今日は泊まっていきますか?」

「……ほぇっ!」

「どうせそのつもりだったんでしょう?」

「ロクくん……」

「はいはい、わかってますからこんなところで欲情しないでくださいよ」

「しないわよっ!人を変態みたいに言わないでくれる?」

「変態じゃないですか」

 ぐうっ、こーいうところが、ドSなのよね。ロクくんは。

 まあそんなところも……いいんだけど。

 ふふふ、でもちゃんと考えてくれてるんだ、私のこと。

 私が今日のお泊りの妄想に耽っているのをロクくんは例によってかわいそうな人を見る目で見ている。


「先生、何かよからぬ妄想をしてません?」

「え?ちょっと何を言ってるのかわからないなぁ先生は」


 相変わらずあまり表情に出さないロクくんは、やれやれとため息をついてコーヒーに口をつけた。



 半分くらい残ったロールケーキをお持ち帰りにしてもらい喫茶店を出る。

「ロールケーキと一緒に私もお持ち帰りだね?」

「はい、そうなりますね」

「はうぅぅっ」

「どうしました?」

「な、何でもないよっ」

 自分で言っておいて、そういう返事を予想してなかったので、きゅんときちゃった……あはは、ドキドキしてる。


 帰り道の途中、2人で服を見に行ったりなんとなく公園を散歩したりしてから晩御飯の買い物をして部屋に帰る。


 ロクくんの部屋に。


「「ただいま〜」」

 よいしょっと買い物をキッチンに置いてから並んで壁にもたれて一緒にテレビを見る。


「ロクくんってさ」

「はい?」

「……ロクくんて彼女いたの?」

「……まあ一応はいましたけど」

「ふ〜ん、そっか。じゃあこの部屋にも来たことあるんだ?」

 はっきり言ってロクくんはイケメンだ。ちょっとぶっきらぼうだけど案外優しいし女の子はほっとかないだろう。

 胸のあたりが、モヤッとして私は少しキツイ感じで聞いてしまった。


「いえ、来てませんよ」

「え?」

「僕の部屋に入った女性は先生だけですよ」

「本当に?」

「はい」

 驚いて見つめる私を真っ直ぐに見て言う。

 気を使ってくれているのではなく本当にそうみたいで、変に気にした自分が情けなくなる。


「そんな顔しないでください」

「だって……」

 自分の半分の年齢の彼氏に気を使われる私ってどうよ?

「あ〜ちょっとお腹すきましたね、晩御飯にしませんか?」

「あ、う、うん、じゃあ用意するね」

「はい、お願いします」

 こんなとこでもさり気なく気を使ってくれている。


 うん、ありがとう。ロクくん。

 後でいっぱいサービスするからね!

 立ち直りの早い私はいそいそと晩御飯の用意をしにキッチンにいく。

 もちろんぽいぽいっと服を脱いでだ。


「そこは譲れないんですね……」

「当たり前じゃない!今日は勝負下着なのよっ!」

 ピンク色のシースルーの上下にエプロンをつけてドヤ顔で言ってやった。


「そういうのは普通言わないんじゃないです?」

「でも可愛いでしょ?」

「ええ、まあ……」


 ちょっと照れた感じのロクくんを見て満足した私はお尻ふりふり晩御飯の準備を始めることにしたのだった。






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