プニッでポヨッでも大丈夫ですか?
明日は待ちに待ったロクくんとの初デートの日。
溜まってた仕事もさっさと片付けて定時ダッシュ。
「おつかれした〜!!」
「お疲れ様です、相川先生」
「お疲れ〜」
同僚の先生方の挨拶もそこそこにルンルン気分で帰宅する私。
「ただいま〜」
誰もいないワンルームの部屋、もちろん返事なんて帰ってこない。
ついこないだまではそんな部屋に帰るのがとてもイヤだった。
だって……ドアを開けて入るとヒンヤリとした空気が溜まっていて、「ただいま」が虚しく響いて。
そんなことも最近は全然気にならなくなった。
明日になったら、明後日になれば、ロクくんに会える。そう思っただけで不思議と大丈夫だった。
我ながら単純だとも思うし、ロクくんがホントに私のことを好きなのかもわからない。
でも、私はロクくんが好きっ!大好き!
それだけで、こう……何て言うか胸の辺りが暖かくなる。
クローゼットを開けて明日着ていく服を考える。
こんな気持ちで誰かと出かけるっていつ以来だろう?
ワクワクする。
「う〜ん、ロクくんの好みがわかんないだよね〜」
私的にはちょっとエッチな感じの露出度高めの服が好みなんだけど……
「お願いですから着替えてきて下さい」
って言われるような気がする。
というか絶対に言いそう。
「清楚な感じで白のワンピースとか……」
随分前に買ったワンピースを身体にあてて姿見で見てみる。うふっとひと笑い。
……ダメ。これムリ、似合わなすぎる。
普段からあまりオシャレする方じゃないし、ジーンズとTシャツがあれば大体大丈夫だと思ってたし。
家だとジャージか下着、夏場はパンイチとかだし。
ヤバイ……
離婚してからダラけすぎたかも……
そぉっとお腹の肉を摘んでみる。
プニッ……
「いやあぁぁぁ〜っ!!!」
露出度高め?はぁ?ナニソレ?タベレルンデスカ?
ダイエットしなきゃ……マジでヤバイかも……
そしてあっという間に翌日デート当日。
私は足取りも……ちょい重めで待ち合わせの場所である駅前に向かう。
いや、デートは楽しみなんだよ!気分はウキウキなんだよ!はあ……
結局あれこれ悩んだ挙句最終的に落ち着いたのは普段通りにジーンズにTシャツだった。
待ち合わせ30分前に駅前に着く、キョロキョロと見渡してもロクくんはまだ来ていない様子。
駅前の噴水前にあるベンチに座ってぼ〜っと流れる水を眺める。
脂肪さんもああやって流れていけばいいのになぁ……
「はぁ、オシャレしないとなぁ……」
「そうですか?先生はそのままで十分だと思いますよ」
「気休めはいいわよ……お腹だってプニッて……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと可愛いですから」
「でも……プニッなんだよ?プ………!!!」
隣を見ればいつもと変わらないロクくんの笑顔があった。
「あれ?ロクくん?」
「はい、おはようございます」
「…………」
「先生?」
「いやあぁぁぁぁ〜!!!」
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
「先生、そんなに気を落とさなくてもいいですって」
「だって……ううっぐすっ」
「ほらほら泣かないで」
「うえっ、ひっくひっく」
「はいはい、よしよし」
暴走して逃げ帰ろうとした私をロクくんが引き止めとりあえず電車に乗った私とロクくん。
泣きベソをかく私をよしよしと慰めてくれるのは、ひじょーに有り難く嬉しいんだけど……
「大丈夫ですって、僕は全然そんなこと思ってませんから」
「……ホント?」
「はい、ホントです」
頭を撫でてくれながら優しい笑顔を向けてくれるロクくん。
「でも……プニッなんだよ?プニッって」
「ふふふ、プニッでもポヨっでも先生は先生ですよ」
「……ポヨっじゃないしっ!」
ぷくっと膨れた私を見て、もう一度大丈夫ですよと言って穏やかな笑みを浮かべる。
「せっかく遊びに行くんですから、そんな顔してたら楽しくないですよ」
「う、うん」
「ね?」
「そうね、うん、そうよね!私らしくないよね!よしっ!」
「そうですよ、先生はやっぱりその方がいいです」
「ごめんね、心配かけちゃって」
「かまいませんよ、お安い御用です」
「……ロクくん……きゃんっ!」
「電車の中で迫って来ないで下さい」
つい抱きつきそうになった私にちょっと軽めのゲンコツを落としてやれやれと肩をすくめるロクくん。
「これくらいで我慢してください」
そう言って私の手をぎゅっと握る。
「ひゃっ!えへっえへへ」
握られた手を見つめてきゅっきゅっと指を絡めて恋人繋ぎにしてニヤける私。
「記念に写メ撮っとこっと」
「手だけ撮っても何かわからないですよ」
「いい〜のっ記念だから」
パシャ、パシャシャシャシャシャ〜〜
あ、連写になってた。
手を繋いだ同じ写真が36枚……
「先生……大丈夫ですか?」
「う、うん、多分」
ロクくんが残念な人を見る目で私を覗きこんだけど、自分でもちょっと残念な人の気分だった。
久しぶりにくる都心は以前にも増して人が多く、おまけに日曜日だということもありごった返していた。
「迷子にならないようにちゃんと手を繋いどかないとね」
「まぁ、そうですね」
ぎゅっとロクくんの手を握りしめて密着する。
「あの、先生あんまりくっつくと歩きにくいですよ」
「え〜っ!くっついとかないと迷子になっちゃうもん」
ロクくんはため息をつきながらもそれ以上は何も言わなかった。
もうっツンデレさんなんだから。
「それでどこに行きます?」
「う〜ん、じゃあとりあえずはラブ……ふぉふぇふひ」
ロクくんが無言でほっぺを空いた手でつねる。
いや、ちょっとしたジョークだよ?ジョーク。
「いたたた、つねった上に捻らなくてもいいんじゃない?」
「先生がしょーもないこと言うからです」
「ちえっ、じゃあお昼ご飯でも食べよっか?」
「どこもいっぱいなんじゃないですか?」
「ふっふっふ、任せておいて!穴場的なお店も知ってるんだから」
私は胸を張ってロクくんの手を引いて人の波をかき分けて歩いていく。
せっかくの初デートなんだからいいとこ見せないとね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます