第4話青葉の不思議

数日後、青葉は本物の花束を見た。外から戻ってきた女性が、ピンクのバラの蕾を抱えていたのだ。


青葉は女性を見上げて尋ねた。


「痛くないの?」


銀河と青葉の会話など知らない女性は、バラの刺が痛くないのかと訊かれたと思い、答えた。


「痛くないよ。刺を落としてもらってるから」


青葉は不思議そうに首を傾げた。女性が何を言っているのか、分からなかったのだ。


女性は立ち去った。


またある日、青葉は中庭で木の枝を落としているのを見た。剪定の時期だった。


木の下に立って見ていると、枝を落とそうとした男が子供に気付き、危ないからどくように言った。


「痛くないの?」


青葉は木の上にいる男に聞こえるよう、声を張り上げて尋ねた。


「痛いよ。危ないよ。当たったらすごく痛いよ。離れなさい」


男は片手で追い払うような仕草をした。


青葉は立ち去った。


青葉は誰にもなつかなかった。いつも構っている銀河にさえそうなのだ。他の人間には尚更だ。


周りからは聞き分けのいい良い子だけど、可愛げがないと言われた。


そんなある日、青葉が銀河の後をついて回った。普段は銀河が青葉を探し、追い掛けている。逆は初めてのことだ。


銀河は驚きながらも、やっぱり子供だし、甘えたいのだろうと考えた。


青葉は1日ついて回った。


夕飯の後、銀河が部屋に戻るけど一緒に来る? と訊ねると、青葉はこくりと頷いた。


銀河の部屋には鉢植えが1つ置かれている。赤のゼラニウムだ。


花は好きだが、花壇のような大きなものを世話するのも、すぐ枯れてしまう切り花も嫌な銀河には、鉢1つがちょうど良い。


青葉は部屋に入るとすぐゼラニウムに近付き、鉢を手に取ってしげしげと眺めた。


「落とさないようにね」


銀河は青葉の隣に座る。ゼラニウムは花壇になかったから、珍しいのだろうと思った。


しかし青葉が注目していたのはそこではなかった。


青葉はじっと花を眺め回す。花をむしられた痕も、葉をとった痕もなかった。


検分を終えた青葉は、ゆっくりと鉢を窓辺に戻した。

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