第3話花束を作りたい

中庭には暖かい春の陽射しが降り注いでいる。その中を、青葉は冬眠から覚めた動物のように歩き回っていた。


片手には途中で摘んできた野の花が握られている。青葉は立ち止まってしゃがみこむと、スギナを取って中に加えた。


昨晩、青葉は本で花束の絵を見た。黄や青や、様々な色の花を集め、白い紙でくるんでピンクのリボンを結んだものだ。


自分でも作りたくなった青葉は、こうして外に出て花を集めた。


まず玄関の横に咲いていたタンポポを摘み、次に目についたスミレを摘み、そうして中庭まで歩きながら、気に入った草花を次々に加えていった。


中庭には花が沢山ある。青葉はレンガで囲まれた花壇に入ると、等間隔で植えられた花へ手を伸ばした。


「青葉ーー! 駄目だって! それは取っちゃ駄目!」


銀河が息せき切って駆けてきたのは、青葉が花を摘みながら花壇の中頃に進んだ後だった。


名前を呼ばれた青葉は、立ち上がって銀河を待つ。


銀河は花壇の前で立ち止まると、膝に手を当てて息を整えた。困った様子で青葉を見ている。


「もう、そこは入っちゃ駄目だよ。ほら、早く出なさい。花を踏まないようにね」


青葉は足下に気をつけながら外に出た。


入ってはいけない場所はたくさんあったが、花壇がそうとは知らなかった。聞いた覚えもない。


銀河は眉を下げて青葉と花壇を交互に見た。それから青葉の前にしゃがみこんで両手をとる。


「花が欲しかったの?」


青葉は頷く。


「うん。青葉は花が好きだもんね。でもね、花を無闇に摘んじゃ駄目だよ。花だって生きてるんだから。摘まれると痛いからね」


青葉は首を傾げた。


「青葉だって、手や足をとられちゃったら、痛いだろう?」


青葉は手や足をとられた経験はなかったが、それは痛いだろうと思い、頷く。


銀河はいい子だねと笑って頭を撫でた。


「もう無闇に取っちゃ駄目だよ? 特にここのは、大切に育ててる人がいるんだから」


青葉はこくりと頷くと、そのまま花壇に戻った。銀河が焦った様子で声を上げるのを無視して中に入る。


青葉は摘んだ花を1つ1つ、もとあった場所に返していく。自分なら返してほしいと思ったからだ。


青葉の意図に気付いた銀河は、黙ってその様子を見守った。


銀河は青葉が花を踏まないよう、注意して歩いているのに気付いた。よく見れば花壇の中に、踏み潰された花は1つもない。


銀河が声を掛ける前から、注意して歩いていたようだ。


優しい子だ。何を考えているのか分からないし、扱いづらいところもあるけれど、素直ないい子だ。


銀河は青葉を見守りながら思う。


ああだけど、花壇を荒らしてしまったこと、後で謝りに行かなければ。青葉が花を好きなのは分かっていたから、前もって注意しておかなければいけなかったのだ。よく言い聞かせておいたから叱らないでと頼もう。許してくれるだろうか。


銀河は花壇の世話をしている男を思い浮かべながら、1人頭を抱えていた。

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