第2章: 夢

第9話 オンラインゲーム

 暁月心療内科クリニックは、Z駅から3駅ほど離れたP駅から徒歩10分程離れた場所にある、三十年ぐらいの歴史のある病院であり、和彦は一時期ここにお世話になり、睡眠薬や精神安定剤を処方されて貰っていたのだ。


 和彦は周囲に知っている顔の人間がいないかどうかを確認して、受付を終わらせて、5名程先客のいる席で座っている。


(こんな所光画社の人に見られたくねーな……!)


 もし仮に自分が心療内科に通っている事が周囲に知られた場合、偏見を持たれるであろう、この国では、障害者などの社会弱者への福祉制度が欧州に比べて劣っているんだーー和彦はそう思いながら椅子に座り、いつもやっているスマホのゲームをやろうかとスマホを開く。


 病気による薬の副作用は恐ろしく、力士並みに太った男性のような女性、ガリガリに痩せて目だけがぎょろぎょろしている男がおり、和彦は彼らと同じようになってしまったのかと深い溜息をつく。


 和彦が数年前、新人の頃にこの病院にお世話になった時の診断結果は鬱病であり、睡眠薬と精神安定剤を処方して貰い、一年ぐらい通い、障害者手帳を考えてみてはどうかと言われたが、当時はまだ障害者雇用が進んでおらず、仕事が見つかりづらくなるし偏見を持たれるからと通うのをやめてしばらくしたら、美智子の暴言は沈静化していった。


(そういえばこのゲーム、久しくログインしてねーな……)


 和彦はスマホを見やり、数年前から廃人になる寸前まで利用していたオンラインゲームを見やり、ふと何かを思ったのか、ログインをする。


 木造の建物の中には、筋骨隆々で頭に角がある鬼のようなキャラクターや、両手剣を持つ小柄な戦士タイプのキャラ、そして、魔法使いのように三角帽子を被って杖を持つ女性のようなキャラがいる。


 ボタンを押して自分のプロフィールに移ると、虎のような兜を被り、大きな斧を持つ筋骨隆々のキャラクターが出てくる。


『カズくん 職業バーサーカー レベル78……』


(久しぶりにやるか、まだ時間あるし。あいつらまだいるかな……?)


 和彦はパーティ呼び出しボタンを押し、アイコンが表示されて、キャラクターが写り、そこではチャットルームのようなものがある。


(チャットしたのはひと月前だったな。あいつら元気かなぁ……?)


 兜をかぶった、さっちゃんというキャラクターに、元気ー?とメッセージを送る。


 そして、眼鏡をかけたこっとんというキャラクターにも久しぶりーとメッセージを送る。


『元気だったよ久しぶり〜私も久しぶりだよ〜』


 この、さっちゃんなる人物は余程の暇人なのか、すぐに返信が来た。


『久しぶりだね(^^) てか君も久しぶりだったのかい?』


『うん、リアル生活で色々あってね、落ち着くまで時間がかかっちゃったよ(T . T)』


『そっか、まぁ詳しくは聞かないけどね』


 こっとんからメッセージがあり、和彦はさっちゃんとの会話を辞めて、こっとんのメッセージを見やる。


『久しぶり(^^)元気にしてた〜?』


『元気だよ〜ハッハハハ……』


 和彦が今プレイしているゲーム『ドラゴンファンタジークエスト』は、仲間をギルドで集めて、魔物を倒しながら洞窟に潜りレベルを上げていくというゲームなのだが、実生活で女性に全く見向きもされなかった和彦は、さっちゃんという女剣士とこっとんという女魔導師という、ゲームの世界では女性のキャラクターをスカウトして仲間に引き入れた。


 以後、彼らはメンバーチェンジをせずに数年間は同じパーティである。


「朝霧さん」


 暫くぶりに彼女らと蜜月の時間を過ごしているのが、医者の言葉で急に現実に戻され、和彦はスマホを閉じて診察室へと足を進める。

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