第二部 継いだ者たちと九つの学園都市とアリアドネの糸

Far East / East END

 極東には二つの意味があるという。

 一つは文字通り――どこを基準点と置くかはさておいて――東の果て。

 もう一つは、とある『神秘の国』がある場所を指したものであった。


 或る北方出身の商人は用事で当方に位置するある国に訪れた際、手記でこう遺したという。


『――その国は、東の海に浮かぶ島国であり、莫大な金を産出し、宮殿も民家も黄金でできていて、とにかく財に溢れているという。

 しかしその黄金は地中から掘り出したものではないという。それは一体どういうことなのか、とその男に聞いてみた。

 彼が言うには、まずこの国における奇術には流派が存在し、門外に漏らされることはない。迂闊に漏らすようなことがあれば、即座に物理的な意味で首を落とされるだろう。それが技術に、国家レベルにまでに広がったのがあの国の技術者なのだという。

 即ち、黄金でできているとされるその国の財とは、ある意味『流派』とも呼べるぐらいには機密性が高い技術者たちの凄まじき手腕によって生み出された財産であり、同時にとても追いつけない絶対的な格差であったのだ。


 彼は……いや彼を含めた多くの人々は、その技術者・研究者たち――正確には技術師らしい――の集団を『技術流派』と呼んでいた。

 私達の言語圏に合わせるなら、『技術者階級テクノクラート』だろうか。


 技術と学術は拓かれたものであることが望ましい。そこから新たな発見と発明が顕れるのは明らかだからだ。だが、彼らはそれを拒み閉鎖的な土壌を作り上げた。利益を主眼に置くのなら、その判断は正しいとも言える。


 しかし、そのあり方は果たして正しいのだろうか?』



 ――以上、【極東異聞録 『央土と伝説のヒノマの国』】より引用。

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