第一章-8 ブレイクダウン、ターンオン
――エドルア島
結晶体の壁に陣取り、弾丸をばら撒くK.O.Fとスパルトイ。
そしてアドミカの部隊が駆る『トライトン』たちが、降り注ぐ弾丸を避けながら応戦する。
弾道予測の赤い線が縦横無尽に走り、彼らの動きを限定する。
〈どうするんですか⁉ これじゃ近ずく事もままならないですよ!〉
〈とにかく撃て! 動け! 機動力が命のVAFが足止めちゃお終いだぞ!〉
ただひたすらに響き渡る銃声と、張られた弾幕によってどんどん削られていく結晶体。
親機一機につき二機の対人型VAF子機がセットであるK.O.Fが四機+八機いるのに対しこちらは四機。
スパルトイはそこまで厚い装甲を持たず、装備も5.56ミリ汎用機銃、散弾銃と対人向け。VAF間の戦闘に巻き込まれればなす術なく破壊されるだろう。
しかし、アドミカ社の戦術AIは、スパルトイがVAF間の戦闘に参加する可能性が高いと予測を立てていた。
「――まさか、弾道予測を利用するとはな」
AIの『勘』と量子演算の
しかし対人用にカテゴライズされている5.56ミリ弾や6.8ミリ弾でも、同じ箇所に連続して命中させることで装甲を撃ち抜いたという報告がある。確かに曲芸の域ではあるが、VAFなら不可能ではない。
人間が乗り込んでいないからどんな戦術も採れる。だからこそ余計にわかる予測は可能な限り拾わないといけない。
〈
〈投げ返されてこっちが混乱するのがオチだ。やめておけ〉
刹那、響き渡る警告音。
視界には一気に距離を詰めてくる2機のK.O.F。片や戦斧を、また一方はメイスを片手に飛び込んでくる。
〈クソッ! あいつら、一気に勝負を付ける気だ!〉
〈
〈クリオラ、確か
〈あぁ。それもMQ-76……
〈使います! ――イカロス3-6、こちらグリム。応答せよ!〉
〈グリム、こちらイカロス3-6。航空支援の要請ですか?〉
やや機械的な女性の声でイカロス――その
〈正解だ
〈了解しました。
〈人工知能を口説こうとするとは余裕じゃないか?〉
〈福音すらなくなったんだ。そんな戦場で生き残るには、AIも口説くぐらいやらないと〉
地上でも命をかけた輪舞が始まる。
戦闘は、未だ継続中――
◇ ◇ ◇
VAFの戦いで勝敗を分ける要素はいくつか存在する。
一つはパイロットの腕。また一つは機体の性能とコンディション。またあるいは計器を信じるか自分の感覚を信じるのかということ。そして
この戦闘では機体のコンディションが勝敗を分けた。
EFPハンマーの登場に焦ったのかK.O.Fはマガジン分の弾を切らしてしまう。そのスキを見逃さなかったエトは機体を懐に飛び込ませ、否応なく接近戦に持ち込ませる。
K.O.Fが繰り出す突きを、柄を用いて受け流していく。
とにかくこのEFPハンマーの撃発面をどてっ腹に叩き込めば勝ち。相手が集中力を切らせた瞬間を狙えば良い。
しかしそれは裏を返せば、失敗すれば後がないと言うことに他ならない。
時たま槍を踏みつけ、バランスを崩させ、その横っ面を撃発面でない面でひっぱたく。
K.O.Fは槍を手放し、そのお返しと言わんばかりに腕を掴んで投げ飛ばしてインファイトから逃れようとする。
脚に絡みつくワイヤー。腕に内蔵されていたそれをぐっと引っ張り、K.O.Fを転倒させる。そして巻き取らせることで再び距離を詰める。
「ここぉ!」
撃発面を制御ユニットが集中する胴部に叩きつけ――左腕に弾かれ、軌道がそれた。
数多の応酬で否が応でも削られていく集中力。
思考は徐々に削がれ、やがて互いに一つの意思に行き着く。
「「お前が死ね!」」
VAFのアシストと加速された意識、そしてVAFファイトで培われた経験でようやくついていけている状態だ。
そして、決壊する瞬間は否応なく訪れる。
突如として右膝がロックする。
見ると朦朦と黒煙を上げている。
――状態をチェック。
(なんてこった……モーターが焼き付きやがった! まずい、距離を――)
そして左脚部のホイールが内側から火を吹いて破裂する。
機体が体勢を崩した瞬間を見逃さず、K.O.Fはエトの機体を蹴り飛ばした。
一転、二転――経年劣化でボロボロになった外装を、火花と共に撒き散らす。
三転――四転――――ハンマーと左脚が宙を舞う。
五転――――六転――――――頭部と右腕がもげ、同じく宙を舞った。
そして壁に衝突した。
ケーブルと破片が、火花と潤滑液が宙を舞う。
床に転がったハンマーを拾い上げ、近づいてくるK.O.F。
ギリギリのところで保った意識で機体を起こそうとしても、もはやピクリとも動かない。
ぼやける視界の中央に文が浮かぶ――
《パイロットの生命兆候に異常を検知》
《パイロットの体内に不可成結晶体の反応を検知しました》
《当機の戦闘継続能力喪失を確認》
《非常時条項第一項に基づき、当機の保全を最優先としたIシステムの完全駆動を開始します》
命令した覚えはない。
だが、浮かぶ文字は流れ、そして――
レンジに入ったK.O.Fが止めを刺さんとハンマーの撃発面をこちらに向けたまま振り上げる。
引き伸ばされながらも薄れゆく意識の中で、誰かが声なき声がこう聞いてきた。
――このままだと、みんなしんじゃうよ?
――きみは、どうしたいの?
死ぬのは御免だし、あの子も死ぬのももっとゴメンだ。
――わたしも、あのこがしんだらこまるの。
――とりひき……しない? わたしならこのじょうきょうをなんとかできるよ。
この状況をひっくり返すことができて、そして利害が一致してるなら、尚更断る理由はないな。OK。その取引、のった。
で、具体的に何をするんだ?
――あなたのなかでそだっている『クリスタル』をふみだいにしてあるべきかたちをとりもどすの。かんぜんではないし、すこしのじかんだけど、きっとだいじょうぶ。
――もしかしたら、あなたがあなたでなくなるかもしれないけど、だいじょうぶ?
何を今更。遅かれ早かれどうせ死ぬ身だ。遠慮なく、やってくれ。
時が戻る。
なんの躊躇もなしにEFPハンマーを振り下ろすK.O.F。エトはそれをつかもうと手を伸ばす。
《Iシステムを、完全駆動します》
刹那、周囲の結晶体が砕け散り、粒子に還る。
粒子は集まり、やがて海となる。
そして――
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