第9話 襲撃者の正体

 光里がパンの最後の一切れを口に入れ満足そうな顔をして味わっている。

 すでに自分のサンドイッチを食べ終えていた幸村は退屈そうにその様子を眺めていた。

「ごちそうさまでした」

「もう満足か?本題に入りたいんだが」

「...ええ」

 光里の顔が引き締まる。

 あれだけ緩み切った表情を見せてからだと少し面白く感じるがオンオフは大事だ。

 幸村もさっきまでおいしそうにパンを頬張っていた姿を一旦忘れ、村への襲撃者として目の前の相手を再認識する。

「俺は幸村だ。芽郷めざと幸村」

 本題に入ると言ったのにいきなり何のことかと光里は疑問符を浮かべてしまう。

「名前だよ名前。お前は何ていうんだ?」

「え、あ。稀宗...光里よ」

「そうか。稀宗、まずはお前の質問に答えてやる。お前が村を襲ってきたのは一昨日、ここは俺と一緒にいたアランってやつの家だ」

「一昨日...」

 それだけの時間があれば支部には失敗の情報がいっているだろう。もちろん自分の安否も。

 それでも村になにも起こっている様子がないのは単にこの村の優先順位が低いからなのだろうか。それとも優先順位が低いのは――

 ネガティブになりかけた思考に首を振り、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「ねえ、なんで助けたの?私は村を襲ったのに」

 幸村は光里を一瞥した後溜息を漏らした。

「あのまま放置してお前に何かあったら俺らがいい気分になると思うか?村を襲ってきたことには腹立つが、死んだら解決ってのは...違うだろ」

 普通だったら感謝の言葉を返せばいいのだろうが現状が現状なだけに光里は口を開くことが出来ず押し黙ってしまう。

「一先ずこんなとこか。次はこっちの質問に答えてもらうぞ」

 ついに来たかと光里に緊張が走る。

「まあシンプルなんだが、お前が襲ってきた理由はなんだ?」

 当然といえば当然の質問だ。

「下手な誤魔化しは通用しないからな。お前の発言とかから一人で考えてやってるわけじゃないのは想像ついてるんだ」





 光里は沈黙していた。

 何度か口を開きかけることはあったが結局何も言葉は出て来なかった。

(これ以上あの方や仲間に迷惑に掛けるわけには...)

 ただでさえ任務に失敗しているのだ。これ以上自分が下手を打つわけにはいかないという思いからうかつな発言はできない。

 しかしこのまま黙ったままではいられないということも、あまり得意ではない嘘を言ったところで通用しないだろうことも分かっていた。

 黙ったままの光里を見かねて幸村が口を開く。

「なあ。こっちは質問に答えたし、俺が殴ったせいとはいえ倒れてたのを介抱までしたんだ。理由くらい教えてくれてもいいだろ。それとも何か脅されてたりしてるのか?」

 脅されるという単語に光里は反応するがそれは幸村が思った反応ではなく――

「違う!」

 強い否定だった。

「脅されてなんかいない!」

「じゃあなんで襲ってきたんだ。そもそもお前―」


「勇者なんじゃないのか?」


「...じゃあやっぱりあなたも」

 対峙した時からあった感覚、それはアランや村の人と会ったときには感じなかったものだ。

 落ち着いて考えた時、謎の光に包まれていた感覚に近いと感じたからこの結論に至ったわけだが、反応を見るに当たりのようだ。

 光里は光里で半信半疑ではあったが予想はしていた。

(ここには勇者がいるって聞いてなかったから気のせいだと思ってたけど、知ってたら私一人に任されるはずないし)

 となれば当然幸村にある考えが浮かんでくる。

「仲間も...勇者なのか?」

「―ッ」

 光里は肯定も否定もしなかったがその反応は分かりやすい。

「マジかよ...急にこっちに連れてこられたからか?確かに最初は混乱したが、そんなことでこの世界の人を襲ったって無意味だって国王の話を聞いたらわかるだろ。それともこの村の誰かに何かされたのか?だったらそれを話さないと何にも前に進まないだろうが!」

 自分と同じ勇者が襲ってきたということにイライラを募らせてしまい、つい語気が強くなってしまう。

「何にも知らないで!こんな嘘つきだらけの世界は滅ぼさなきゃいけないのよ!」

 それにつられてか光里も俯いたままではあるが強い口調で反応してきた。

「幸村、だったよね。あなた元の世界に戻りたいと思ったことはないの?」

「戻りたいって言ったって最初に戻る方法がないって言われただろ。魔王倒さないと勇者は戻れないって」

「それが嘘だったら?」

「は?」

「私たち勇者はエデグリアの王政に利用されてたのよ」

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