第6話 始まった異変Ⅳ

(ちょこまかと動かないでよ!)

 詠唱を終え、すかさず杖を振るがまたしても外れる。

 

 幸村の予想は半分当たりだった。

 光里は今回が初めての実践で、いままで本気で避けてくる相手と対峙したことがなかった。さらに疲労も加わりうまく狙いが定まらない。

 しかし一番の原因はそこではない。

 光里は人に向かって魔法を撃ったことがないのだ。当たった相手がどうなるか分からないほどバカだったら楽だったかもしれない。

 恐怖と使命の間で揺れながら放つ魔法が必死に避ける幸村たちに当たるはずもなかった。

「アラン!」

 がむしゃらに魔法を撃っていると、アランと呼ばた男が避けた拍子に足を滑らせた。


(ここで当てなきゃ...使命を果たして絶対に向こうに帰るんだから!)

 眼をつむり祈るように放った魔法は一直線にアランに向かっていく。

 しかし当たる直前、横から飛んできた鍬に 弾かれてしまった。

 その事に胸を撫で下ろしてしまい、また自己嫌悪に陥る。

 だからなんでホッとしてるのよ...このままじゃまた――


 脳裏に一人の女の人が浮かぶ。

 持っている紙と自分を交互に見た後、呆れたような溜め息を吐いた。


 私は...私は...


「役立たずでも出来損ないでもないのよ!」





 間一髪だった。

 足を滑らせたアランを見て、ヤバイと思って鍬を投げたのが幸いした。

「大丈夫か?」

「助かったよ。もうダメかと思ったけどね」

「鍬、持ってきて正解だったろ?」

「なにそのドヤ顔。でもありがとう」

 もう一度ドヤ顔を披露して相手を見る。

 何故か動きが止まっている。今が好機――

「私は役立たずでも出来損ないでもないのよ!」

 でもなかった。

 今までと雰囲気が変わったのを見て緊張で全身が強張る。


雷の雨ピオッジャ・トゥオーノ


 瞬間、無数の雷の柱が辺りに降り注ぐ。薄暗い洞窟がその閃光で眩しいほど明るく照らされる。

 しかしその柱が直撃することはなかった。

(何が狙いなんだよ...)

 戸惑いを隠せないでいると肩になにか当たった。

 ハッとし、見上げると天井からパラパラと砂や小石が降ってきている。よく見ると亀裂も入ってきているようだった。

(こいつまさか洞窟ごとやるつもりなのか!?)

 そんなことされたら魔法石は壊れ、俺たちは良くて生き埋めだろう。そうなれば村だっておしまいだ。

 アランなら、とすがるように横を見るが呆然と立ち尽くしてしまっている。

 もうダメだ。成す術が――


 いや、ある!


 ありはするが俺にできるのか?

 躊躇していると―ゴトンッと大きな音と揺れを感じた。見ると先程の小石とは比べ物にならない岩が落ちていた。

 迷っている暇はない。可能性があっても動かなければ始まらない。

(俺はあの頃とは違う!)

 決心し、祠にある魔法石を取るとアランに押し付けた。

「え?何」

「いいから持ってろ!落とすなよ」

「うわっ!?」

 そのまま混乱するアランを背負い前を見た。崩落が始まっており、次々に岩が落ちてくる。

「頭下げて守れ、舌噛むなよ!」

「ど、どうする気だよ!?」

「いいから祈ってろ!」

 一か八かだ。

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