第2話 始まりの日

 日はまだ見えないが、空がうっすら白くなってきた頃。

 村からそう遠くは離れていない草原に人影があった。

 フードを深く被っているため顔は見えないが、笑っているように見える。

 目の前には魔法石が輝いていた。


 長い旅路だったけど、ここが目的の村で間違いなさそうだ。

 今からやることを考えれば多少良心が痛んでくるが、あの方の言葉を今一度思い返す。


「この世界の住民は皆、滅ぼさなければならない」


 この世界に来てからすべてを教えてくれた人。

 右も左もわからず不安に押し潰されそうだったときに手を差し伸べてくれた人。

 そんな人の言うことに間違いなどあるはずがないと決心を固め直し――


 魔法石を破壊した



 


「すまない」

 

 側近らしき人に国王と呼ばれた男が立ち上がり謝ってきた。

 

「へ?」


 意味が分からないのも当然だろう?

 ドアを開けたと思ったら光に包まれた。太陽が眩しかったというレベルではなく、文字通り包まれた。

 そして気付いたらRPGさながらの空間にいたんだ、これで動揺しない方がおかしい。

 

 そんな時に最初にかけられた言葉が謝罪だったから何とも間抜けな声を出してしまった。

「あの、何がですか?」

「今其方そなたに起こっていることと、これから起こることすべてだ」

 疑問しか浮かばない。こうも抽象的に返されたら、そもそも答える気があるのかも疑わしい。

「ふむ、当たり前だがひどく混乱しているようだな。其方には質問をする権利がある。何でも申してみよ、答えられるものはすべて答えよう」

 よかった。一応対話は成立しそうだ。

 

 しかし、質問していいと言われたけど聞きたいことが多すぎてまとまらない。

 あんたは何者だ?ここはどこだ?というか何で会話が成立してるんだ?どう見ても国王とやらは日本人ではない。

 考えた末、俺は最初の質問をぶつけてみた。

 

「全部ですね。まずはあなたが持ってる情報を全部教えてほしい」

 俺なりに考えた結果だ。割と最善策だと思い満足していたが、笑われた。

「いや、すまん。そこまで大胆に聞いてくる者もそうおらんかったのでな」

 失敬だな。考えた50個くらいある質問いっぺんにされるよりマシだろ。

 

 しかし、教えられた話は到底笑えるものではなかった。


 ここはエデグリアという大陸で何年も前に魔王の進攻にあったのだという。そこで異世界から勇者を召喚して見事そのうちの何人かによって魔王は討ち滅ぼされた。しかし魔王の討伐が成功した後にも勇者を召喚するシステムが停止できなかったらしい。以降、異世界からの召喚は終わることがなく今も続いているということだ。言語に関しては加護を受けているためだと言われたがそこまで重要ではなかった。ここまででも仰天ものだが本当にヤバいのはその後に話されたことだった。

 

 帰れない。


 厳密にいえば帰る方法がないわけではないが俺には無理ということだった。魔王を討ち取った勇者一行は倒すと同時に消えたけれど、その場にいなかった他の勇者には特に変化はなかったらしい。このことから魔王討伐が帰る方法と考えられるが、其れ即ち魔王がいなくなった後に召喚された俺は帰れないということになる。


「申し訳ないと思っているが理解してもらいたい。幸い国は安定しておる。職にも就けるだろう。それと少しばかりだが資金と武器を...しよう......其方のた........ねがっ――」


 

◇ 



 夢だったのか。

 時計を見るといつもよりずいぶん早い時間に起きていることに気付いた。

 

「なんか外が騒がしいな」

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