第620話


ムルコルスタ大陸に復興支援が集中したのは、ひとえに魔法が退化しているためであった。


「話には聞いていたが、魔法が退化しすぎていたな」


はじめは魔法世界に魔法が退化した大陸があるといっても信じてもらえなかった。その大陸出身であるミリィさんの言葉があっても、だ。


「そーんなことがあるかー」

「そんな大陸があるんだったら俺らが行ってやらあ」


そう言って復興支援に立候補して出て行った彼らからの最初の報告が「「「信じなくてすみませんでしたー!」」」だった。しかし魔法の手練てだれが向かったことは事実で、最後まで手を抜かずに仕事をしてきた自負はある。


「比較的使われている生活魔法も、知っているが使ったことがないという。属性魔法も、本はあるが練習していないといっていたぞ。いくらなんでもおかしな話じゃないか」


その点は私も不思議でしかなかった。ダンジョン都市シティをはじめとした各地の町や村に住む冒険者以外の人たちでも、生活魔法以外に得意な属性魔法ぐらいは知識として身につけている。それがムルコルスタ大陸では、一部の生活魔法以外はとくに使われていない。基本が身についていないため、応用など使えるはずがない。


私が魔法に興味を持ったユーシスくんとマーレンくんに水の魔法を教えた。その応用も教えたとき、ママさんはその使い方を知らなかった。私の勉強会が2人によって打ち切られたのち、ママさんは本屋で魔法の本を買ってきて水属性の魔法を勉強したそうだ。


冬が来るまで宿に泊まっていたが、ママさんの勉強はすごかった。知識の吸収力が違ったのだ。それまで雨天時の店内は湿度が高くなりがちだったが、水魔法の応用で乾燥させることができて快適に過ごせると人気がでた。


「雪も氷も水魔法です。お湯も水蒸気も水魔法に含まれますよ」


そう教えたら、そりゃあもう……すごかった。お湯を沸かすと、隣で蒸気を冷やして鍋に移して水に戻す。この水で食器を洗うのだ。洗った食器は拭かずについた水滴を鍋に移してまた洗い物に使う。洗濯物も水を取り除くことで一瞬で乾燥。雨天時の客の衣類も一瞬で乾燥させて快適に過ごしてもらう。

そうして店でできる魔法を覚えたママさんのおかげで、喫茶店だけでなく食堂も繁盛した。



「あっ、そういえば俺たちが入れない建物があったぞ」

「どこにですか?」

「たしかシメオン国の王都近くだ」


シメオン国……たしか、いまのシメオン国の王都は旧シメオン国の王都から数キロ南に位置を変えている。


《 旧シメオン国の神殿だよ 》

「放置されているのか?」

《 そう。人が立ち入ることは出来ない 》


以前、妖精たちが旧シメオン国を調べに行って同じ報告をした。今回は調査ではないため向かう妖精たちに花を捧げるように伝えた。元はナナシの神殿であろうと、いまは捨て置かれた神殿であろうと……前回妖精たちは無断で入り、放り出されていた神殿内部の飾りや書物を勝手に持ち出してきた。そのお詫びも兼ねてのことだ。


《 そこは朽ちかけている。長い間放置されたんだろうね 》

「仕方がない。世界の神に棄教させられた以上、宗教の復活に結びつく教えに触れさせたくはないだろう」


……入っても何もない。だって妖精たちが持ち帰ってしまい、ピピンに叱られたのだから。そしてピピンの検閲後に私が読ませてもらえた。それには漢字や英語に和製英語など、日本で読む本となんら変わらない書物だった。


「これって……私はいま、ギリシャ神話でも読んでるの?」

「いいえ、間違いなくこの世界で棄教させられた神殿から回収された本です」

「こっちはエジプト神話、この本は北欧神話。これは日本の神話に妖怪もいるし……ごっちゃ混ぜ?」

「どんな理由で集められたものか分かりかねます。その神殿の女神がどの女神だったのか分かりませんし」


ただ、日本の神話に影響したせいで、聖女召喚を目論んで失敗したときに仏像や多重塔が引き寄せられたのだろうか……

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