第619話


「じゃあ、ギルドからこの国に受け入れの許可をもらったら出発してもらえるか?」

「ああ、すぐにギルドに行ってくる」

「任せた」


ホフマンの采配は正確で判断は素早く。ホフマンが派遣隊のリーダーとして任されたのが納得できる。さらに地の妖精たちがついてきたのも理由があった。地の妖精は『の妖精』ともいわれているくらい地頭はいい。そこにエミリアの妖精たちの知識を吸収した妖精たちかれらは、派遣隊の頭脳ブレーンとしてきた。分かれて行動するパーティについていき、その場にあった指示をするらしい。


見知らぬ地で状態がわからない以上、地の利が読めて的確な指示ができる指導者が必要なのだ。何も知らない派遣隊が足を引っ張ったり、更なる災害を引き起こしてはいけないのだ。


《 んー、ここは地盤が弱ってるね。ぬかるみで馬が足をとられる 》


目を閉じて意識をその地へ向けていた妖精がそのままの状態で口を開く。


「遠回りした方がいいか?」

《 いや、このままでいい。ただ、ここで1時間休憩してくれる? この周辺を直接確認して、できるならあげたい 》

「そこは街道だ。直してもらえるなら国から報酬が出る」

《 だったらそれを被災地に使え。私はここの大地が病んでいるのを治してあげたいだけだ 》


キッカの言葉を妖精たちは《 別のことに使え 》という。彼らは復興支援に来たのであって、そんな礼として支払う金があるなら支援に使えというのも当然なのだ。


《 ホフマン、ここに残って指示するなら国王に言っとけ。「救援に来た私たちに礼を感じるなら友好関係を築け」と 》

「安心して。私たちから伝えるわ」


急に加わった声。鍛錬場の扉にフィシスたちが立っていた。


「皆さん、遠くから復興支援に来てくれてありがとうございます。そしてたくさんの食糧支援、誠にありがとうございます」


商人ギルドの長としてシェリアが代表して頭を下げる。


「ああ、フィシスの姉さんだっけ。並ぶとよく似てるな」

「あ、はい。そうです」

「ミリィが頭を下げると言っていたが、そのとおりだったな」


ホフマンだけでなく周りからも事前に何か聞いていたのか、何かに納得したように頷きあっている。それに困った表情を見せるシェリアと違い、アンジーとシシィは顔を見合わせて「「そういうことね」」と何かを理解した表情で頷き合う。そんな2人に不安げに目を向けたシェリアを見ていたフィシスもようやく理解したようでシェリアの右肩に手を置く。


「シェリア、支援は善意よ。シェリアがお願いして送ってもらったんじゃないんだから、改まってシェリアがお礼を言うことではないの」

「でも……」

「国同士のことなんだから、国王が向こうの国王に御礼をするのよ。シェリアは国の代表じゃないでしょ」

「そうそう。支援を受け付ける窓口に商人ギルドが選ばれているだけ。シェリアが国の代表になんかなったら、国が滅びちゃうわよ」

「そうそう。小さな恩にも何十倍にもして返そうとしちゃうんだから」

「そ、そんなこと……」

「「あるわよね〜」」


反論しようとしても言葉が詰まるシェリアに、アンジーとシシィが揶揄うように笑いかける。その様子にタグリシア国から来た冒険者たちが小さく笑い合う。


「話に聞いていたとおりだ」


誰もがそう口にする。ミリィから「絶対シェリアは御礼を言いにいくわ。でもシェリアが代表して御礼を言うのは違うと気付いたアンジーとシシィにシェリアが揶揄われるわよ」と言われていたのだ。そのとおりの展開が目の前で行われている。冒険者たちが面白がるのも当然だった。



各国各地に分かれて復興支援に向かった冒険者たちの活躍は大変素晴らしく、タグリシア国の評価を上げた。復興支援は3ヶ月という期間限定だったが、どの国からも延長を望まれた。しかしそれをどのパーティも冒険者も首を縦に振らなかった。


「まいったぜ。俺たちの持ってきた食料を支援に出せ、食わせろって言ってきてさ。エミリアが休憩はテントの中に入ってしろと言ってた理由がわかったぜ」

「ああ、それはこっちもだ。でもこっちは常識がある国のようでさ、ちゃんと集まった連中に説教してくれる奴もいたぜ」


彼らの支援は、魔法が退化しているため建物の再建がおもだ。その際に、立地に相応しくない場所は妖精たちが大地を改良したり移築させた。


「連中が俺たちを引き止めようとしたのは便だぜ」

「中には女をあてがおうって奴らもいてさ」

《 そんな連中は首の下を固い地面に埋めてきた。復興しごとの邪魔だ 》

「えらい、えらい。で、花は生やしてきた?」

《 もったいないから、そこら辺で生えてる花を頭で育てられるようにしてきた 》


フンッと当時のことを思い出したのか両腕を組んで怒っている妖精の頭を撫でると、落ち着いたのか両肩から力が抜けたように下がる。


「これがその写真だ」


魔導具で映しだされたその映像は報告会が行われている会議室に立体で浮かんでいる。どうやら頭のテッペンを刈りとられて花壇にされたようだ。それはゆっくりと時計回りにまわる。「撮るな」と言ったのだろう、口が開いた状態で切り取られたその瞬間の顔で笑いが止まらなくなった。

……彼らは知らないだろう。復興支援の報告として情報部が配信したニュースにその写真も拡散されたため、世界の端にある大陸で笑い者になったことを。

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