第602話
アウミの身体はすでに両足が失われている。雪が不安定なアウミの身体を支えるように降り積もっているため倒れずにすんでいた。
アウミ自身はすでに諦めに似た感情を
信仰心は女神をも救う。それは名もなき女神でも同様だろう。信仰心が女神を強くする。その逆もまた
「
アウミの証言が正しければ、名もなき女神は自らの信者を減らしたこととなる。旧シメオン国のようにパルクスの国民が自分を盲目的に信心すると思ったのか。だからもう、
しかし、パルクスの国民にとって
そしていま……アウミの信心も失われ、その魂はサーラメーヤによって神の
「アウミ」
「もう、後悔しなくてもいい。……
「私、は……」
「信仰の象徴のお役目、お疲れさん」
私の言葉に涙が流れ出す。
シャバラはアウミに体当たりすると同時にその姿を消した。アウミの魂を背に乗せて連れていったのだろう。残ったシュヤーマが私に擦り寄る。目の前で死者を
私が抱きしめるとそっと頭を舐めてきた。
妖精たちが立ち上げた『エミリア教』。その信者は妖精たちだけには収まらず、ダンジョン
《 タダより高いものはなし! 無料だと言われたらコップ一杯の水でも疑え! 》
額面通りに疑うと食堂や喫茶店に対する営業妨害である。しかし、それらの水がファウシスでは操り水に置き換えられて人々に提供された。宿屋などの生きた樹を使った建物の場合、自然に浄化されて普通の水に戻って影響下に置かれずにすんだ。
そのことは公表されていない。というのも、その場所で屋台で買ってきた食事や飲み物を飲食した場合は操られてしまう。「
そんな教育をこと細かく受けた
いまの私なら、名もなき女神相手に立ち向かえるのではないか?
「見つけたぞ、家出娘」
シュヤーマを抱きしめてそんなことを考えていたところ、上から声が聞こえた。
「気のせい」
「何がだ?」
「眠い」
「風邪ひくぞ」
「眠いから幻覚が聞こえる」
「幻覚は見るもんで聞こえるのは幻聴だ」
「……ノーマンたち、操り水の効果を打ち破って、歩いてでも帰ろうとしたんだって」
ダイバが黙って私の隣に座る。そしてそのまま私の頭に手をのせた。
「バカだよね。ノーマンが温度調整の腕輪を持っていれば帰ってこられたのに」
「誰がいったんだ?」
「アウミ」
「会ったのか」
「シャバラが送った」
「…………そうか」
しばらく黙っていたダイバが立ち上がるとヒョイと私を抱き上げた。
「帰ったらお説教タイムだ」
「帰んない」
《 もう! わがまま言わないの! 》
そういって涙石から飛び出してきたのは
こうして、涙石から出てきたキマイラの背に乗せられて、私の家出は終わりを告げた。
「でもさ、みんなだって涙石から見てたんでしょう?」
《 当然でしょ 》
「それでダイバは?」
「
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