第447話


「無理よ!」

「エリー、口を挟まないで」

「ミリィ、止めるでしょ! 危険なのよ!」

「じゃあ、エリー。誰がどう連絡を取るというの?」


エリーが行くの? と言われて黙る。竜人しかいない場所、そこに誰も行くことはできない。


「ダイバ、あなたたちは」

「無理だ」


エリーさんの言葉をサクッと切り捨てる。当然だ。竜人の敵側に同じ一族がいる。全員が味方ではないのだ。


「エミリアちゃん、いいの⁉︎ 本当にこれで!」

「ねえ、エリーさん」

「……な、なに?」


必死に引き留めようとするエリーさんは、私の言葉に不審な動きをする。スッと動いた影に一歩遅れて反応したエリーさんだったが、地面に叩きつけられた。動いたのはシーズルだ。立ち上がった『鉄壁の防衛ディフェンス』の皆さんは、眉間に皺を寄せてスッと手をあげたアルマンさんに止められて動きを止める。


「エリーさん。アクセサリー、いつからつけなくなったの?」


私がまだ『エア』だった頃にあげたアクセサリー。肌身離さずつけていたのに、今季来たときから身につけていなかった。


「エリーが単独行動して一人で来たときからね」

「正確には中に入ってからだ。……お前がここに残ったアウミの、いや失われた女神の意を受けて残った者だな」


ガンッという音がして、はめていた指輪が左手の指数本と共に砕けた。ダイバが踵で踏みつけたからだ。指輪は砕けていても復元できる。復元しなくても鑑定はできる。

同時に姿は女性に変わる。その姿はルレインだった。副都長のときに聖魔士くずれの騒動が起き、都長が罪を犯したがために都長になった女性で……


「エンリケの仕返し?」

「私たちは結婚するはずだったのよ」

「エンリケを止めなかったのは誰だ?」

「私たちへの協力を拒んだから! だから彼は周りに認めてもらうために……!」

「最初っから協力を求めるな」

「私たちはエミリアさんに協力を求めて動いていないわ」

「ウソよ!」

「何が、ウソなの?」


私がそう聞くとルレインは黙った。


「最初っから『お近付きになりたい』とか『今後も協力してほしい』とか言ってる奴らと協力し合うわけないじゃない」

「だったら、ダイバたちはなに⁉︎ ヘインジルと私たちとなにが違うのよ!」

「何もかもが違う。何より、私を最初っから頼る腐った根性を持っていない」


私の言葉に言葉をなくしたルレイン。ダイバやアゴール、ヘインジルも自分で動いている。そして私はその補足をしているだけ。そしてその対価はもらっている。ダイバたちからはバラクルのグークースだ。


「ヘインジルは! アイツの子供には『妖精の加護』がつけられて」

「いないよ」

「……へ?」

「だ・か・ら〜。屋台村で倒れて出産したときに、緊急だったから出産に適した場所に整えた。そのときも、出産に協力した連中がそう言ってたけど、私はその場で否定した。さらに出産に協力した女たちも自分たちにも加護がもらえるなんて勘違いしてたから否定した。ヘインジルたちは『子供には妖精の加護がある』なんて言ったことないでしょ」

「……言ってない」


ルレインは顔を俯かせる。人からの話を聞いた程度だ。


「ヘインジルは商人ギルドのギルドマスターだよ。奴隷の購入には商人ギルドの許可が必要なの。私は奴隷市の騒動を協力する代わりに、奴隷を購入して都市なかで働かせる許可をもらった。もちろん身売りの奴隷だけにしたのは、以降も住まわせるため。身売りだから、バラクルやミリィさんの鉄板屋でも許可があれば職人として働ける。その許可を出してもらったの。それが対価。あなたは私になんの対価を提示してくれたの?」


ルレインは顔をあげない。してもらうことばかり考えて、対価かえすことを考えていない。そんな人に誰が協力するのだろうか。

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