第395話


「アゴールって、強いのに弱いよね」


私の言葉にみんなが笑う。

気絶したアゴールは二階でフィムと寝ている。フィムは『良い子のお昼寝タイム』だ。妊婦のアゴールもフィムと一緒にお昼寝するのは、一時的にフィムにさけられた反動だ。


「アゴールってさ、私がダンジョン都市シティにきた頃に起きたドラゴン騒動で大活躍したのに。ダイバの前じゃ可愛い子猫ちゃんだよね」

「アレのどこが『可愛い子猫』だ? 目一杯襲ってくるぞ」

「ダイバにだけね」


この世界に日本で見られた動物はいない。しかし、魔物は猫種や犬種などという分類に分けられている。自然淘汰されるような弱い魔物は、愛玩動物ペット化していく。私の世界の犬や猫のように。私の大切な仲間のピピンやリリンスライム白虎サーベルタイガーのように。

そんな中で、白虎を含めた猫種はすべて猫と呼ばれている。体躯の大きさは違うけど、猫のように日中ゴロゴロしては喉もゴロゴロ鳴らす。白虎は猫じゃらしで遊ぶから、ほかの子も遊ぶのだろう。


「ダイバはアゴールっていう猫のなの」

「あー、それは確かにそうだな」

「そうね。小さい頃からダイバが行くところへ一緒に行って、寝るときはいつも一緒だったわ」


私の言葉に思い当たるのか、コルデさんとフーリさんは昔を思い出すように遠い目になった。

いつもダイバと一緒にいた。ダイバの男友だちもいた。そして故郷にいた頃は一緒くたになって遊び転げていたらしい。


「アゴールのおとこらしさは、それが理由なんだね」

「そういえば、男友だちの中で一番な。『何でアンタはアゴールみたいになれないの⁉︎』なんて叱られる男たちもいたくらいだ」

「……やっぱり、『外見と中身の性が違うナンバー1』じゃん」

「それを本人の前でいうなよ」

「後ろでいえばいいんだね」

「エミリア、それは意味が違う」


私たちのやりとりにコルデさんがお腹を抱えて笑い転げている。よくイスから落ちないもんだと感心する。


「エミリア、ちょっとおいで」

「なあに?」


おいでおいでと手をクイクイとするシューメリさんにテトテトと近寄ると、グイッと抱きしめて膝の上に乗せられた。


「エミリア〜、アゴールには『漢らしい』は禁句だ」

「なんで?」

「……エミリア、アゴールをどうみてる?」

「……かっくいーんお姉ちゃん」

「格好いいじゃないのか?」

「うん、


ん? という表情になったダイバが、私の前にきてしゃがむ。


「エミリア、なんて言った?」

「かっくいーん」

「カッコいいって聞こえんな」

「うん、かっくいーん」

「どういう意味だ?」

「カッコいい女王様、だから、コいい。ンで、かっくいーん」


私の説明でみんなが理解したのだろう。一瞬ののちに大爆笑となった。

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