第396話


アゴールに、私が名付けた『カッコいい女王様かっくいーんなお姉ちゃん』が当事者の知らぬ間に定着した頃……


《 今年も遊びにきたよー、『火吹きドラゴン』 》

「またあ? アゴールは妊婦だから再戦はダメだって伝えてよ」

《 再戦にきたんじゃないよ 》

《 アゴールにプレゼントだってー 》

「じゃあ、ダイバと一緒にいくって伝えて」

《 はーい 》


アゴールに一撃で負けた火吹きドラゴンだったが、勇者でも男でもなく『男っぽいだけの女』に一撃で負けたことが信じられず認められず。こうして毎年アゴールに再戦を挑むためにやってくるのだ。

店を出ると、すでにで大騒ぎになっていた。毎年くるからすでに『もうそんな時期か〜』と言われるまでに認知されるようになった。


「またきたのか。すでに執着だな」

「今回は再戦じゃなくてプレゼントを持ってきたんだって」

「なんだ? 旦那ダイバではなく自分をパートナーに、ってか?」

「それこそ、アゴールに吹っ飛ばされるぞ」


みんな好き勝手にいっているがそれには前例がある。初めての邂逅でアゴールに一撃で吹き飛ばされた。そして目を覚ましたと同時にプロポーズして、ダイバが地面に埋め込んだ。


「今日はアゴールはお留守番だよ」

「あー、今は辛い時期か」

「それと怒りん坊さんだから」

《 エミリア、アゴールが『暴れん坊さん』になってる 》

《 討伐していい? 》

「できれば捕縛で」

《 わかったー 》


涙石からダイバを迎えにいった光と水の妖精からがきた。


「……なにやってんだろう?」

「どうした?」


私の呟きに私服守備隊のひとりが反応した。たしかに不穏な言葉をいったんだから心配されるよね。


「アゴールが暴れてて、妖精たちから討伐要請がでた」

「ああ、それで捕縛っていったのか」


コクコクと頷くと、遠くから叫び声が近付いてきた。


「あ、きた」


私の言葉と同時に『屋根を弾んで跳ねてきた水球』が屋根から落ちてきた。同時に水球が割れて、べちゃあという音と共に地面に顔面から落ちたダイバ。周囲はダイバが動かないため笑いも起きない。


「ダイバ、この程度で死んだ?」


ツンツンとダイバを突っつく。


「死んでねえ。ただ、ここに来るまでの過程で死にそうになった」

「屋根を跳んできただけでしょ?」

「その前」

「んー? 妖精たちが討伐要請してきたけど?」

「あー、それだ」

「何があったの?」

「アゴールが

「「「うわあ……」」」


アゴールの強さを知っている周囲から、嫌そうな声があがる。アゴールより強いダイバがここまで体力を奪われるくらいだ。その暴れっぷりを思い浮かべたのだろう。

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