第391話


ダイバは手が回せる範囲内で調査を始めた。まず最初に、先祖返りのシューメリさんは両性具有ではなかった。ただしシューメリさんの弟が両性具有で、成人前に男性になったそうだ。


「あら、両性具有っていったら旦那もそうよ。あと旦那の末の弟フレイズも」

「ああ、そのフレイズだけど女になったらしい」

「え? たしか『好きな女性ヒトがいるから男になるんだ』って言ってたわよ。本当にフレイズは女に?」

「アリシアの話から、ですが……。あと……」

「そのアリシアがいうには『母親より胸がデカい』と言ってたらしい」


ダイバが、私が長男ボタジェシカのことを言おうとしたら言葉を被せてきた。『いまは言うな』ということだろう。私たちの話を聞いているコルデさんと目が合うとコクコクと頷いた。コルデさんには事前に話を聞いていた。コルデさんのお父さん、つまりダイバのお祖父さんも先祖返りだったことで、何か知らないか聞いたのだ。


「それで、エミリアが『竜人の先祖返り』を知らなくてな。先祖返りなら両性具有じゃないのか? とか俺に聞いてきたんだ。だったら直接聞いてみたほうが早いって連れてきた」


ついでにメシの時間だったからな。そう言ったダイバの言葉にシューメリさんは豪快に笑った。



「全身を流れてるのは竜血だけ? それって血が濃すぎるとか、竜にならないと魔力操作できないとか……」

「ないない。竜血と言ったって、大元は《人間が龍の血をかぶっただけ》だからね。竜の一族は血を重ねすぎたせいで濃くなっただけさ。私ら先祖返りはその『人間と龍の血がうまく混ざった』ってだけさ」

「ん? じゃあ、うまく混じれなかった人もいたの?」

「ああ、そうさ。そいつらは少し、たしか十年前後だっけ? その程度の長寿さ」


全員が同じように竜人になったわけではないらしい。そして、相反する力で苦しんで死んでいった人たちもいたそうだ。


「そんなこと、本には載っていなかったよ」

「そりゃそうさ。当時は悲恋より勇者もの。そして我が身を投げ出して龍の毒を浴びて死ぬより、人として生きられなくなった悲劇の方が好かれたものさ」

「そんなもんかなあ。勇気を出して戦ったのに……。御伽話じゃなくて事実の話なのに」

「ああ、間違いなくたくさんの名もなき勇者が斃れ、生き残ったひと握りの勇者が伝説となった。その人たちには『守りたい人たち』がいて『還りたい場所』もあっただろう」

「ただの数字になっちゃった」


私の言葉にシューメリさんは何も言わず、目を細めて頭を撫でてくれた。

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