第390話


「元々ミルクは俺の手伝いだったからな」

「よく子供にさせてたね」

「いや、普通はポットのお湯を再沸騰させて作らないからな。魔法瓶でお湯を冷まして使ってたんだ。子供の俺が触れなければ、赤ん坊のミルクなんて作れないだろ」


兄が触れる温度なら私が飲んでも火傷はしない。そのため、実の両親は兄に任せていたようだ。


「俺が作ったミルクを俺が抱っこして飲ませると、お前は俺をじっと見ながら一生懸命飲むんだ。可愛かったんだぞ〜」


思いっきり餌付けである。


「そうか、私のブラコンはお兄ちゃんの餌付けからだったんだ」

「ん? このカナッペ食うか?」


兄はそう言ってクリームチーズのカナッペを私の口に持ってくる。もちろん、好物を拒否する私ではない。口を開けて待っていると意地悪もせずに入れてくれる。パクッとしてからモグモグ、モグモグ。

そんな私を兄は嬉しそうに微笑んで見ている。イケメンで有名な兄だが、病的なシスコンのため恋人などいたことはない。私も恋人がいたためしはない。完全なる相思相愛だった。


「お兄ちゃんって元々シスコンだったんだ」

「そりゃあそうだろ。だって…………」


「「妹を可愛く思わない兄はいないぞ」」


二人のお兄ちゃんの声が重なった。口にだしていたようだ。お兄ちゃんと重なるセリフに思わず笑みがこぼれる。


「ダイバ、シスコンの自覚ある?」

「なんだ、急に? しかし、うーん……俺よりアゴールの方がシスコン拗らせているだろ」

「アゴールのもシスコン? フィムと扱いが一緒だよ」

「仕方がないだろ。アイツは末っ子だったからな。年下の女の子はシエラくらいしか知らないぞ」

「でも、抱っことか多いよ」

「それはミリィやエリーのせいだ。エミリアを膝に乗せて甘やかしているからな。女の子はそうやって甘やかすんだと思っているようだぞ」

「……じゃあ、この先も?」

「今のままだな」


ダイバの言葉には苦笑するしかない。ミリィさんより一緒にいる時間が短いエリーさんは、最近特に私を膝に乗せたがる。アゴールが私を露骨に甘やかすようになったからでもある。


「アゴールにとって、私、おっきな子供?」

「あー、うん。……そのうち変わるだろうが、しばらくはそうなるな」


今のうちに思いっきり甘えておけ。

そう言ったダイバは私を抱きしめながら頭を撫でてきた。その仕草は亡き兄にそっくりだ。夢で見た兄を参考にしたのだろうか。だからシスコンまで受け継いじゃったんだ。

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