第392話


「じゃあ、じゃあ。子供を産んで育てないと竜人になれない人たちって?」

「ああ、それは血を重ねすぎたせいさ。別に人間じゃなくても、ちがう種族間で結婚すれば問題ない。ただ人間はほかの種族と違い、異種族の血が混じっていない分、濃くなった血を薄める効果が高い」

「じゃあ……ダイバとアゴールは? 竜人同士の結婚だよ」


私がヒザの上に乗っているフィムを抱きしめる。そんな私をアゴールがギュッと優しく抱きしめてくれた。

アゴールは私をヒザに乗せようとして、周りから「妊婦だろ!」と止められた。そのため、私の後ろに座ってくっついている。


「エミリア。フィムと赤ちゃんを心配してくれてるんだね。ほんと優しい子だよ」


いつも豪快なシューメリさんが、いつもより優しく、まるで壊れ物を触るように頭を撫でてくれる。


「大丈夫さ。この子たちが竜人同士で結婚したとして、あと百世代は問題ないさ」

「先祖返りでも?」

「んんー? ああ、先祖返りが竜血のみだからかい?」


コクコクと頷くと、私を後ろから抱きしめていたアゴールが「大丈夫です」と言った。


「ああ、アゴールがいうとおり大丈夫だ。誤解されやすいが、先祖返りの血は人間にほぼ近い。つまり、シューメリは竜人の中に生まれた人間ってことさ」

「今の世界では魔素は呼吸から取り込めるから、魔素を含んだ竜の血をもつ竜人とは大して差はないし。フーリ、なんか問題あるか?」


竜人のことは竜人の皆さんに聞いた方が早い。そんな理由でバラクルで働く皆さんが揃って会話に参加している。基本、先祖返りのシューメリさんが話しているが、脱線しかかる会話を補足だなんだと会話に加わって修正してくれる。そんな中、話を振られたフーリさんは「うーん」と天井をみあげて考えだす。


「筋肉の差は『身体強化』の魔法で差はないし、パワフルはシューメリの専売特許でしょ。魔力も過去は大きな差になってたみたいだけど、現代いまでは呼吸でカバーできるし」

「そうね。シューメリだけではないけど、魔導具だってあるから大きな差もないのよ」

「強いて言えば……」

「「「先祖返りはパワフルなシューメリの前では意味がない!」」」

「ちょっと、あなたたち!」


シューメリさんがバラクルのお母さんたちに揶揄われている。「幼馴染みだから、遠慮というものがない」というのが、シューメリさんの今の主張だ。


「って言うより、パワフルすぎるシューメリ義母かあさんは、先祖返りっていう足枷ペナルティーがないと抑えられないという方があってるだろ」

「ダイバ。お前という奴は『嫁の母を敬う』ということができないのかぁ」


シューメリさんがダイバの頭をゲンコツで挟んでグリグリと動かす。


「エミリア、シューメリ義母かあさんをどう見てるんだっけ?」

「……豪快な母ちゃん」

「「「ちげえねえ!!!」」」


私の言葉に父ちゃんズが声を合わせて大笑いし、大きなその笑いに驚いたフィムが慌てて両手で耳をふさいだ。その小さな手を覆うように私がフィムの耳をふさぐと、後ろから私の耳をアゴールがふさぎ、その上から隣に立つダイバの大きな手が覆った。

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