第372話


「ダイバ、大丈夫?」

《 ダイバ、大丈夫じゃない? 》

《 ダイバ、だいぶダメ? 》

《 ダイバ、全然ダメ? 》

《 ダイバ、疲れた? 》

《 ダイバ、起きれない? 》

《 ダイバ、起きない? 》

《 ダイバ、生きてない? 》

《 ダイバ、死んじゃった? 》

《 お墓は? 》

《 裏の農園でいい? 》

《 穴をあけたら埋めてあげる 》

《 何を埋める? 》

の木? 》

《 違うよ、の木 》

《 カリーの木なら果樹園にある 》

《 じゃあ、クルミの木にしよう! 》

《 カーバンクルの好きな木の実を植えよう 》

《 だから、ダイバ 》

《 栄養のために死んで♪ 》

「ちょっとまてぇぇぇぇい!」


大きな声を出しながらテーブルに突っ伏していたダイバが勢いよく上半身を起こす。しかし何も言わずにふたたびテーブルに突っ伏した。徹夜で報告書を作成したダイバは完全に睡眠不足。さすがに私の店では寝られないというためバラクルまで連れてきたが……部屋で寝たら起きられないだろうということで、テーブルに突っ伏して仮眠していたのだ。


「ダイバ、そろそろ起きないと」

「わかってる……」

《 死ぬの? 》

《 栄養になる? 》

「誰がなるかー!」


ここにいるのは裏の農園でお手伝いしている妖精たちだ。ただし最近加わったばかりの新人妖精たち。妖精たちの思考回路は本来こんな感じ。隣国で長年苦しめられてきた妖精たちは色々とあった。そのため知識を得て思考回路が人間以上になってきた。

……妖精たちの賢さは辛く悲しい日々と引き換えにされたものだ。

それでも、このダンジョン都市シティに移り住んだ妖精たちは一年もたてば、知識と賢さが伝染される。


「そのオツムはいったいどうなってるの?」

《 だって、私たち『一人の神様』から生まれた姿だもん 》

《 だから妖精同士で共有しやすいんだよ 》

「それは同じ神から生まれた妖精同士? それとも地の妖精同士、水の妖精同士ってこと?」

《 どっちも正解 》

《 ただね、近くにいないと共有できないんだ 》

「その範囲は?」

《 だいたい、普通の町単位……かな? 》


火の妖精がそう言ったのには理由がある。通常の王都や町はその見た目どおりであっている。そして、外周部は城壁と魔物よけに建てられた壁の中がその範囲だが、通常の町や村と変わらない。

ただ、このダンジョン都市シティは城壁の内側は、空間魔法で巨大化しているため普通ではない。ダンジョン都市シティだけ特殊なのだ。その理由は地面の遥か下に棲む神の眷属・騰蛇が作り出した特殊な都市趣味の世界だからだ。人口が多くなればいくらでも大きくできる。騰蛇自身の話では世界の二倍は広がるんじゃないか、とのこと。

しかし、地図上から見ると『岩山と大きな外周部に囲まれた十軒程度の小さな村』しかない。


「それが見下される原因なんだよな」

「それでなんで見下せるんだろうねえ」

「そりゃあ、エミリア。アイツらはバカだからだ」


ダイバが断言したが誰も反論しない。誰もがそう思っているのだ。……責任ある立場だから口に出さないだけで。

ちなみにここは報告会会場。ダイバはまだ試作品の『おめざめスプレー』の実験体になってもらった。成分はアンモニアではなく硫黄。温泉があるから湯の花も存在する。それを入浴剤にしているのだけど、欲しいのは成分だけ。そのため脱気で臭気を取り除いている。普段はそれを浄化させることで自然界に戻す。その臭気を蒸留させて液体化したものだ。

ワンプッシュで目を覚ましたダイバの感想は「商品化したら売ってくれ」だった。植物系の魔物によっては眠らせて取り込むものもいる。


「取り込まれてもゆっくり溶かされていくため、十日以内なら救い出せる。そいつが目を覚ませば吐きださせることも可能だ」


そのため、試作品を渡して効き目を試してもらうことにした。

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