第295話


最終日の奴隷市。すでに大半の奴隷解放軍は檻の中。二日目で『酔っ払って保護されたものの解放されるためのお金が足りなくて檻の中』って公表されている奴隷解放軍と死隊の関係者たち。そのため、連絡が取れなくても疑われることはなかった。


「罰金はいくらでしょう?」

「銀貨三枚です。ですが、酔って暴れたら罰金は追加されますし、その被害の大きさや相手を傷付けていた場合は罰金刑では済まなくなりますね」


だというのに、同じように路上で寝ていたり、酔っ払って取っ組み合いのケンカをしたりして追加で捕まっていった。


「数人は罰金だけで解放したんだが……」


バカはバカなため、同じことを繰り返して牢の中へ。もちろん二度目は高額で請求された罰金だけでは済まず。最終日の今日、奴隷市に犯罪奴隷として一緒に並ぶことになっている。


「エミリア、奴隷市を見にいくのか?」

「いくよ。でも、その前に妖精たちがなんか騒いでいるからそっちを潰しにいってくる」

「妖精たちが? 一体何があるというんだ?」

「……違法売買をしている。店というより、話を持ちかけて直接売ってるみたい」

「何を売っているというんだ?」

「…………商品自体は大したものではないよ。だって私が作るハーバリウムのニセモノだもん。それを私から直接仕入れているとか言って、ぼったくりの高値で売ってるの。ただ、その中に妖精が閉じ込められているのがあるんだって」


捕まえるのはダイバたちだ。私は誰のどの品物かを教える役目。転売自体は問題がない。ただ、ニセモノを私の商品だといい、『自分は特別に卸してもらっている』などと言って販売しているのだ。虚偽に名誉毀損だ。さらにレシピの無断使用。


《 神が放置した大陸だから好き放題してるんだ 》


ムルコルスタ大陸では、それこそ罰を受ける人が多かった。小さな罰は見逃されてきたが、賞罰には罪名が表示されていた。

しかし、神が見捨てたために罰を受けない人たちがこの大陸には多い。……こっそり、神獣や眷属たちに罰を受けているのを知ったのは最近、メクジャが魔物として討伐されてからだ。ダンジョン管理部が、今までもダンジョンボスとして討伐された元冒険者や元犯罪者などの名前を公表した。行方不明になってから二百年後に魔物として現れて討伐された犯罪者もいる。


「大陸全体に、罰で魔物になることもあるって教えてもいいよね」

「管理部が調べたところ、実際に町を襲った魔物の記録に元はドワーフ族や巨人族だったというのもあります。それでも一番多いのは人間ですね」

「それを知ったらどう思うのかな?」

「行動を改める者が多く増えるのと同じく、罪を犯すことに躊躇しない者も増えるでしょう」

「そんなのが目の前で罰を受けるようになったら怯えるよね」

「それ以前に、神獣の罰を受けるのを嫌ってこの国から逃げ出すでしょう」

「この国以外にもいるのにね、神獣たち」


そう、あちこちに神獣たちはいるが、住み着いているのを公開しているのはこの国……というより、ダンジョン都市シティのみだ。空魚ルティーヤのように空に棲んでいるのも、騰蛇のように大地の中で棲んでいるのもいるのだ。


「公開された記録はこの国だけで、他国は公表していないだけなんだけどな」

「この国で討伐された魔物も、行方不明になったのはこの国以外なのにね」

「この国でいなくなった人たちが、ほかの国で魔物として討伐された可能性もあるんだけどな」

「都合の悪い情報は耳を通過するんだね」

「いやいや、耳の前でU ターンしてるんだろ」

「大切な情報なのにね」

「耳障りが良くないんだろ」


大事な情報ほど無視をするのは得策じゃないんだけどね。

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