第294話


「それで、何をしようとしていたの?」


妖精たちが率先して捕まえようとしていたということは、放置していれば妖精たちが被害を受ける可能性があったということだ。


「妖精たちの情報通りだ。奴隷解放軍が事件を起こして奴隷たちを自分たちがをする。そして、隠れ家アジトで待っている元奴隷商が正規の手続きで奴隷たちを開放する。その馬車を襲って死隊にする」


しかし、その計画には根本的な問題がある。


「でも、死隊にできないでしょ? だって神獣の領域エリア内だよ」

「ああ。神獣のことを知らなかったらしい。だから、死隊が消滅したことで『手近な奴隷市で即席の死隊を作ろう』としたようだ」


やはり、国境を越えてきた理由には何かしらの魂胆があったようだ。


「この国に入ってきたということは、目的はこの国? でも、この国に目ぼしいものがある?」


私の言葉にダイバが呆れたような目を向けてきた。


「あるだろ? 俺の目の前に」

「…………どこ?」

「お前だ、お前‼︎」


後ろを振り向いたら、ダイバに頭をガシッと掴まれた。


「なんでぇ〜‼︎」

「だ・か・ら‼︎ お前は聖魔師テイマーだろうが!」

「んなこといっても〜。『聖魔師テイマーじゃなくても妖精がみえる』って人ならいるじゃん。ミリィさんとか、エリーさんとか、ルーバーとか。ダイバだって妖精たちをみたことあるじゃん」

「俺たちはエミリアの同調術で『一時的にみえている』だけだ」

「だけど、死隊も奴隷解放軍もダンジョン都市シティに入ってこられないよね?」


ダンジョン都市シティには神獣の加護がある。魔物が団体で押し寄せたとしても入り口の魔物よけの魔導具で入れない。…………それ以前に、近付けば消滅する。魔物じゃなくても、悪意を持っていれば入る以前に近寄れないのだ。



「……で? 何が起きる予定だったの?」


妖精たちに直接聞くことにした。周囲に捕まえるのに協力した妖精たちが集まって喜んでいるのだ。


《 奴隷解放軍が奴隷を奪う計画を立てていたのは知ってるよね? 》

「死隊がその奴隷を横取りしようとしていたのもね」


コクコクと頷く妖精たち。


《 その後に、外周部に火を放って大火事にするの 》

《 その混乱に紛れて、たくさんの人たちを連れ去る気でいたの 》


まだ同調術が続いたままのダイバたちが妖精の言葉を聞いて目を丸くする。


「ここに、聖魔師テイマーがいま〜す」

《 ここに水の妖精が沢山いま〜す 》


私のマネをして手を上げた水の妖精たち。


《 ここには火の妖精がいま〜す 》


はーい、と手をあげる火の妖精たち。中には両手をあげる子もいる。


「これで、大災害が起きると?」

《 ナイナイ 》


私の言葉に水の妖精たちが左右に首を振る。


《 ナイナイ 》


同じく、火の妖精たちが左右に首を振る。


「止めるもんね〜」

《 ねー 》


火と水以外の妖精たちも一緒に笑顔で同意する。

その可愛らしさに、ダイバたちの固かった表情が柔らかくなる。


「そうですね。神獣の中には水を守護するレヴィアタンがいます」

「地面の下には火の属性の騰蛇トウダだっているよ」

《 あ、その騰蛇だけど……。『外周部に残っている悪いのは捕まえてダンジョンボスにしていいんだよね?』って聞いてたよ 》

「あー…………。そいつは『あとで』って伝えてくれるか?」

「奴隷市の最終日までは生かしておきたいです」

「アゴール、それは方じゃないのか?」

「いいえ、最終日まで生きていたことを目撃させなくてはいけませんから。そのあとでしたら、ダンジョンボスだろうと雑魚だろうと自由に活用していただいて結構です」


冬の間に、ダンジョンボスとして現れたメクジャが討伐された。その結果、騰蛇のことも公表されたし、今までも同じようにダンジョンボスとして討伐された大罪人がいたことも知らされた。死んだ冒険者で『ダンジョンに飲み込まれた』うちの何割かは魔物として討伐されたこともダンジョン管理部は公開した。

それまでダンジョンを軽視していた冒険者は、慎重にダンジョンを進むようになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る