第293話


今月は庁舎で内勤をしてるダイバとアゴールに妖精たちの情報を説明にいくとすぐ都長室に運ばれた。今年の都長は商人ギルドのギルド長。過去の騒動でギルド長が代わって以降、商人ギルドとトラブルは起きていない。それに今のギルド長は、私の担当職員だったヘインジルだ。私に、ほかの国の商人ギルドや職人ギルドと関わっていたのなら、そちらで所属した方がいい。この国に関わっていると搾り取られるだけだ、と教えてくれたのがヘインジルだった。ポンタくんの職人ギルドに所属したことを知って、ヘインジルはすぐにポンタくんへ謝罪とお礼のメールを送ったようだ。

そういう信頼を得ていったヘインジルは、気付いたらギルド長になっていた。


「エミリアさん、同調術は一度に何人にかけられますか?」

「同調術は目と耳だけにかけます。だから……三百人くらいでしょうか」


この二つにかけるだけなら、特に魔力を消費しない。それに、というだけで、何度も繰り返しかけられる。ただ、精神的に疲れるだけだ。そのことを以前に同調術を使ったときに知ったダイバとアゴールから「待った」がかかった。


「同調術をかけるのは、指示を出す隊長や副隊長の五十人程度。それ以外の連中には必要ない」

「そうですね。全員が見えていたら統率がとれません。今回はできる限り隠密で動く必要があります。全員が見えていたら、妖精が一緒にいる者たちを手当たり次第捕まえてしまいます。それでは、何も知らない人たちを巻き込んで最悪な事態を引き起こすだけです」


ということで、最終的に実働隊として動くダイバたち十二人に同調術をかけた。ダイバたちダンジョン管理部は魔物と戦っていることもあり、今回みたいな緊急性のある特殊任務でも動くらしい。そして……


「おお〜。大量! 大漁!」


パチパチと拍手すると、周りからも拍手があがった。

死隊関係が十八人。そして、奴隷解放軍は百六十三人が捕まった。公開檻は二組わけて入れられているが、自分たちに何が起きたかわかっていないらしい。


「そりゃあ、そうだろ。アゴールの提案で取り入れた『保護用睡眠スプレー』が一瞬で眠らせたからな。おかげで混乱もなく無傷で捕まえられた」


ダイバたちが手分けしてスプレーで眠らせた男たち。彼らは周りから酔っ払いのように見られていた。そして、路上で眠る連中を保護するという名目で堂々とダンジョン都市シティに運び入れた。……そして、現在に至る。


《 まだ残っていたけど、それは放置してるよ。全員がいなくなったら仲間たちにバレちゃうもんね 》

「それだけならいいけど、よその奴隷市で騒ぎを起こされても問題だよね」

《 一応、『何か大きな契約が成功したらしく、酒に溺れて路上で寝ていたから酔いが抜けるまで保護されたらしい』って噂になってる 》


それを裏付けるように、普通の酔っ払いたちを保護する簡易宿泊施設が用意されている。素泊まりだけど、ちゃんと料金は支払ってもらっているらしい。拒否をすれば牢の中へお引っ越しだ。


「銀貨三枚でも安いよね〜」

「はい。酔って路上で寝る行為は犯罪です。それを罰金刑で済ませてあげるんです。それとも、奴隷として一緒に奴隷市に並びたいですか? そう確認したら、皆さんステキな笑顔で快く罰金を支払ってくださいました」


きっと、敵に回してはいけないアゴールの凄みに、尻尾を巻いて逃げだしたんだろうね。

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