第256話


白虎の背に乗って運ばれる私。前に『索敵サーチ』の魔法で安全確認をしているピピンが座り、後ろではリリンが……


《 リリン。帰ってからでもよかったのに 》


千手観音菩薩を丸飲みして清浄化している。ピピンと交代して二体目…………


「ねえ……」

《 待って。ピピン、魔物の気配はない? 》


火の妖精の質問にピピンが上下に揺れる。


《 はい、エミリア。心ゆくまで思いっきりどうぞー 》


光の妖精の言葉に私は大きく息を吸った。


「なんで! こんなに! 仏様も! 四天王も! 十二神将も! 鬼神も! このダンジョンに埋もれてるのよ〜!!! この世界はどうなってるのよぉ〜!」


思いっきり絶叫して、はあ、はあ。と肩で息をしていると、ピピンが水球を出してきた。飲んで落ち着くように出してくれたのだろう。水属性のピピンは、癒しの水の成分を調べまくって自分で生み出せるようになった。成分調査には水の妖精も協力していたが、調合や錬金で作られたものを作り出すことはできないらしい。カバンからコップを出すと、その中に入れてくれたので一気に飲み干して息を吐いた。実は今、リリンが清浄化しているのは三十二体目。


《 エミリア……。悪い報告、してもいい? 》

「お耳、日曜〜」


両耳を塞ぐと《 ちょっと……、エミリアー 》と地の妖精に言われ、ほかの妖精たちからは笑いが漏れた。



「それで? 冗談抜きでなにがあったの?」

《 うん、このダンジョンって『百七十番ダンジョン』だよね? 》

「そうだよ」


そう、鉱石専用の百七十番を選んだ……はずなんだけど。地の妖精の表情は固い。


「ここは百七十番であってるの?」

《 うん。それは間違いないよ 》

「じゃあ、なあに?」


私がそう聞くと、地の妖精は困った表情を見せた。


「また、未発見のダンジョンとか?」

《ううん、違う。……ただ、最初の仏様が見つかってから、『裏ルート』っていうのかな? 正規じゃない、仏様が閉じ込められたルートに迷い込んだみたい 》

「……だから、仏様が大量に出るのに魔物は一体も出ないんだね」


そう、ここは六階。ここまで一度も魔物とは接触していない。だからこそ、このダンジョンが異常だと判断したピピンは自身で『索敵サーチ』を使い、私に魔力と体力の温存をさせていた。それと同時に、地の妖精にはダンジョンの確認に行かせていた。


「それで、魔物はこの先も出てこないの?」

《 うん。ボスもいない。ただね、このルートをクリアすると正規のルートの一階に戻るよ 》

《 エミリア。リリンが『綺麗になったよ』だって 》

「あ、ありがとう。そうだ。このダンジョンって何階まで?」


くらやみの妖精が重力魔法で浮かせて、リリンが飲み込んでいた千手観音菩薩像を収納する。


《 次がボス部屋だよ 》

《 ボスがいないけどね 》

《 転移石を使っても、ダンジョンからは出られないけどね 》

「じゃあ、正規ルートに戻ったら、今日はテントで休もうか」

《 早く仏様が休める場所へ行こうね 》

《 でも、どこに置く? 》

《 いっぱいいるもんね 》

《 大きいもんね 》

《 新しい場所、つくる? 》

《 おひさまがあたらないように、大きなお家をつくろうね 》

《 王都につくろっか 》

《 でも、ダンジョン都市シティの近くじゃないと、エミリアが気軽に行けないよ 》

《 僕たちも行きたいもんね 》

《 神殿みたいに『お世話係』のお家もつくろう 》


この子たちはお寺や本堂や伽藍でもつくろうというのだろうか。

……パソコンにお寺などの情報があったかな?

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