第231話
「じゃあ、ちょっと出かけてくる」
「王都ですか?」
「うん。滅ぼしてくる。ついでに、『今回の主犯も持ってくる』から」
「公開檻を追加して待っています」
守備隊の隊長で私服守備隊の管理もしているノーマンだが、本当に話がわかる。
『
ふわりと浮かぶと、空を覆う結界に穴が開く。魔物よけの結界は『外からくる魔物』に効果はあるものの、『結界の中から出るもの』には効果がない。
結界の外に出るとキマイラが嬉しそうに寄ってきた。遊んでもらえると思ったようだ。
「キマイラ、私はちょっと出かけてくるから。ここの守りをお願いね」
グルルルルルル
私の前では、白虎と同じくネコ科のようだ。
「じゃあ、お留守番よろしくね」
そういうと大人しく私から離れて、ダンジョンの外壁にあたる岩山に帰っていった。そこがキマイラの新しい家なのだ。
身体の周りを空気の膜で覆い、王都に向けて全速力で飛んでいく。何もいない空だからできること。音速( 秒速三百四十メートル )ではなく、光速( 秒速三十万キロ )で飛べるのはすでに実証済みだ。一時間で一万二千二百四十キロ。だいたい東京からグアテマラまで一時間で着いてしまう計算だ。
今は音速で飛んでいる。王都まで二十分。約四千キロの距離だ。サンフランシスコからニューヨークまでいくよりは少し近いくらいか。まあ、国の端から端まで離れているからねえ。……その点ではアメリカと同じか。
急にステータス画面が開いて思わず止まった。衝突を避けるために『索敵』の魔法を使っていたため、魔物が近くにいると表示されたのだ。
プカプカ浮かんだ状態で索敵の詳細を確認すると、魔物に襲われている
「おー。アリじゃん。でも、なんでこんな場所にいるんだ?」
彼らがいるのは砂の上だ。いくら『
「……手助けするか」
戦った記憶はないが夢で見たから弱点は知っている。
多勢に無勢の彼らに近付くと、馬車の御者台にいる男が私に気付いた。
「手助けは必要か
「助けてくれ!」
「報酬として倒した分は私がもらう。
「可だ!」
開いたままにしているステータス画面の中央に【 緊急クエスト サンドアントの討伐 】と表示が出た。その下に【 受諾 】と【 拒否 】と表示されていて、受諾をタップする。【 承認しました 】と最終表示がでたことで、私がこの戦闘に手を貸すことが可能になった。
「全員、馬車に戻って。緊急クエストを受諾した」
「ああ、頼む。……え? キミ一人、なのか?」
私と御者台の人物とのやり取りが聞こえていたのだろう。助っ人が来たことは気付いていたが、私一人だとは思わなかったようだ。
「……さっさと引いてくれ。魔法を使うジャマだ」
「わかった。全員馬車まで撤退!」
素手の私に驚いていたが、『魔法を使う』と聞いて仲間たちに指示を出す。私たちの会話を聞いていたのだろう。誰もが私をチラリと確認するが、素早く馬車まで下がる。その間に、私は五十メートル先に砂の壁を作り出した。魔法を使ったら、際限なく飛んでいく。ダンジョンとは違い、放った魔法は勝手に消えないのだ。
「頼む!」
全員が馬車に避難したのだろう。男性の声がした。
『
『
『
前方向に向けて、三種類の魔法をぶっ放す。背後で「おおお‼︎」という驚きか恐怖か感嘆か、判別し難い声があがった。
一度、この魔法を『風神』『水神』『雷神』でイメージしたら……。冗談抜きで私が立っている場所以外が『跡形もなく消え去った』。深く、そして広く、大地が抉られていたのだ。その後、ピピンに触手でペチペチペチペチと二時間ずっと頭を叩かれてお説教された。
「本当に危険なとき以外は使わない」
「使うときは一度に一つだけ」
そう約束して、ゆびきりもして、それでやっと許してもらえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。