第230話


「大丈夫です。溺れないようにできていますから」


今からプールに入れられる、傷だらけの使者たち。ルレインが彼らに注意事項を説明していた。目の焦点が合っていない人も三人、四人はいる。全員の腕には魔力封じの腕輪が装着されていた。


「いつまでも堂々巡りが続いたので、彼らに腕輪をしました」

「両手につけているのもいるね」

「ああ、彼らはステータスも封じました。護衛だったようで武器を取り出しましたから」

「危ないな〜。広場で武器なんか出したら……。みんなは無事?」

「はい。前回の使者と同じく静電気を受けました。今回の魔導具は威力を強化させたので、武器を持った者たちは気絶しました」


素手の相手に武力で立ち向かおうって……

相手が一般人ならそれも可能だろうけど、ここは『冒険者の、冒険者と商人による、冒険者のためだけの都市まち』だ。


「バカだね」

「はい、その通りです」


水槽の前に立つルレインから少し離れて、項垂れた状態で正座している使者一行の十人。顔が腫れたり手足にできたすり傷から血が滲んでいる。彼らは水槽の水が塩水だということに気付いていない。



前の使者は公開牢の中で鬱々としている。彼にはちゃんと誤解をといておいた。逆恨みされては迷惑なので。


「檻……、檻を渡せない、と……。ただ、それだけだったのですか」

「そう。この檻は迷い込んだ魔物を落ち着かせるための、もう一度フィールドに離すために作られた専用の檻だ。魔物の子が親からはぐれて迷い込むことがある。そして、混乱して暴れ回る。そんなのを倒すような冒険者はいない。絶滅させる必要はないからな。それに、親は子を殺されれば凶暴化する。……人間だってだろうが。だから、落ち着いたら親がいるであろう場所に連れて行く。……アレだって、今は大人しいだろ?」


親指でクイッと聖魔士くずれの成れの果てを指すと、そちらに目を向けて納得したような表情を見せた。


「こちらはちゃんと『魔物の移動に耐えられる檻を用意して持ってこい』と伝えています。それを『檻ごと寄越せ』と言われて承諾すると思いますか?」

「マジでナニサマ? ついでにアレの所有権はコルスターナにある。横取りにきただけじゃなく強盗に来て、快く差し出すと思ってる? ……これで何度目の王都崩壊かなぁ」


私の言葉に青ざめる使者。ガタガタと震えるが、後悔先に立たず。


「今回は聖魔士が関わってるから、私が王都を潰してくるわ。どうやら、王都の連中は私を『妖精がいなければ何もできない』ってバカにしているようだから」

「次の使者が明日には到着するから、それが終わってからにしろ。どうせそっちも同じ考えだろうから、まとめて片付けてこい」


ダイバのいう通り、次の使者も脳足りんノータリンだった。

そして今、くらやみ魔法で重力操作ができる人や腕力に自信のある冒険者が、使者たちを塩水プールに投げ込んだ。……大丈夫。今回は重力操作ができる人がフタを外している。


「ギャァァァァァァ‼︎」

「イタイイタイイタイイタイ……」

「沈む!」

「た、助けてくれ……」


阿鼻叫喚の地獄絵図。毎回なので、誰もがチラリと目をやる程度で興味を持たない。これも公開処刑なのだ。そしてこの都市まちには公開処刑を娯楽として楽しむ大人はいない。……今も、水槽の周りに集まっているのは子供だけだ。


「悪いことをしたらこうなるよ」


少し大きな子供が周りにいる小さな子供に話すと、子供たちは強張った表情で頷いた。子供たちにとって、口で注意されるより目で見る方が印象が強いようだ。

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