第229話


「そろそろ、王都から塩水プールに遊びにきた人たちを丁重に接待おもてなししましょうか」


前の使者は、プールで泳ぎの練習を始めた三日後に、足に刺さっていた剣が抜け落ちた。


「仕方がないよね。自分で抜いてくれなきゃ治療ができないもん」


剣が刺さっていたことで止血に近い状態になっていたため、抜くに抜けなかった。そのため、いつ剣が抜けてもいいように二十四時間ずっと見張りの隊員と治療院の治療師が水槽のそばで交代しながら見守っていた。私もフタを開ける必要があったため、日中は屋台村にいた。

妖精たちは今は家からだしていない。聖魔士がどこに現れるかわからないからだ。そのため、涙石を置いていこうとした私をピピンが止めた。何かあったときに涙石を通して駆け付けられないかららしい。その代わり、妖精たちが勝手にでていかないように見張っていてくれる。


「エミリアが妖精がいなくても規格外に強いってことを連中に思い知らせる方が一番だよな」

「一応強いからこそ、ダンジョン都市ここで妖精たちが暴走するのを抑えていられるんだけどね」

「エミリアが抑えなかったらどうなってる?」

「ん〜? まあ、私が住み着いた時点で商人や職人のギルドは崩壊してるだろうね。そのあとだって、孤児たちの騒動で「管理が悪い!」って冒険者ギルドと庁舎が潰されて。……その後の騒動も考えると『関所ゲートの向こう』以外は消滅してたんじゃないかな?」


自分たちが薄氷の上で暮らしていたことに驚く周囲の人たち。


「ねえ、なんで今さら周りは驚いているの?」

「そりゃあ、エミリアが抑えていたから個別で対応あの程度ですんでいたんだと気付いたからだろ」

「抑えない方がよかった?」

「「「いやいやいやいや‼︎」」」


全員が声を揃えて、一斉に首を左右に振る。


「じゃあ、今度から妖精たちの暴走を抑えなくてもいい?」

「「「これからも抑えてください‼︎」」」


全員から涙目で懇願された。放っておくと面白いことになりそうなんだけどなあ……


「エミリアさん。ダンジョン都市シティの外で、いくらでも楽しんでください」

「ああ! そうですよ」

「ここは今はエミリアさんたちの家がありますからね」

「外だったら、荒野ばかりなので好きなだけ暴れても大丈夫です」

「ついでに魔物退治してくれたら嬉しいわ」

「んー? 魔物の方はキマイラの存在が『魔物よけ』になるから、数は圧倒的に少なくなるはずだよ」


キマイラは自分で魔物を捕食している。そのこともあり、この都市まちを中心に半径二百キロは魔物の被害が軽減される。弱い魔物はすでに逃げ出したらしい。隣の村にはもう魔物に襲われることもないだろう。もし、野盗が現れてキマイラのせいにしようとしたら、遠慮なく本物キマイラの食事になる。

キマイラのテリトリーで犯罪を犯せば、問答無用で食事の候補だ。裁判なんか必要はない。魔物相手にどう裁判するというんだろう?

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