第232話
『索敵』で生き残りがいないことを確認して、ドロップアイテムを収納する。残っているのは馬車に戻った彼らの分だ。砂の壁を元に戻すことも忘れない。
「すまない。助かった」
そう言ったのは、私が声をかけた……冒険者? いや、傭兵か? 正規の兵士のようには見えない男性だった。
「残っているのはアンタらの分だ。フィールドでは早く片付けないとさらに強い魔物がくるぞ」
「ああ……。おい、すぐに回収に向かえ」
収納カバンを持っていないのか、半数以上が収納に向かった。ステータスの持ち物にしまう場合は『収納』機能が使えない。もしくはドロップアイテムをそのまま持ち歩く。何人かはアントの触覚を運んでいる。
……彼らはステータスを使えない奴隷のようだ。
彼らが持ってくるドロップアイテムが少ない。自分のドロップアイテムを確認したが、ムルコルスタ大陸で戦ったアントと種類が違うからか、ドロップアイテム自体が違う。『アントの甘いみつ』の数は少なく、代わりに『蟻酸』というものが大量に手に入った。……仕事で、革をなめす時に使うって教わったな。ということは、このサンドアントは毒を持ったアリということだ。
ちなみに蟻酸と書いて『ギサン』と読む。『アリさん』ではない。……と、自分がそう読んだから覚えていた。
「あの人とあの人、それと彼は早く治療したほうがいい。アントの毒を受けている」
私が指摘すると、三人に向かって走っていく仲間たち。彼らは揺らさないように背負われて戻ってきた。
「一緒に来てもらえますか? お礼を……」
「断る」
馬車から出てきた身なりのいい男の慇懃無礼な物言いにカチンときた私は言葉を遮る。
「……どこまで行かれますか? もし急ぐ旅じゃなければ同行してもらいたい」
「急ぎ」
「……そちらを後回しに」
「今すぐ黙るか、永遠に黙るか。どちらが
睨みつけると「ヒュッ」という音と共に黙った。助けてもらった礼も言えない奴と同行する気はない。緊急クエストが発動した以上、私が所属しているダンジョン
「お待ちになって」
「ミスリア様!」
箱馬車から、旅に似つかわしくないドレスを着た二十代と
男が私を睨みつけるが、この女性、ミスリアには髪がある。この国の王族は男女共に妖精たちの手によって『永久丸坊主の罰』を受けている。つまり他国の王族だ。この世界では、他国で自国のルールは通用しない。私が膝をつく必要はないのだ。
「頭が高い!」
「止めなさい。ここはコルスターナではないのよ」
ミスリアの言葉に「あ、しかし……」と慌てる男。そんな彼に目もくれず、彼女は私の前まで近付き頭を下げた。
「
カーテシーで謝罪するミスリア。メクジャというのが、慇懃無礼な男の名だろう。先ほどの緊急クエストは彼の名で発動されていた。
「あなたの謝罪を受け入れます」
私の対応にピクリと肩を揺らすミスリア。メクジャも驚きの表情で固まった。私の蔵書の中に『よいこの礼儀作法』という書物がある。ルーフォートでもらった蔵書の中にあったのだ。元々、日本で礼儀作法を学んでいたこともあり、基礎はできていた。高校の授業もバカにできないものだ。ちなみにこの世界の礼儀作法の先生はピピン。いや〜、厳しい先生だった。気を抜けば丸くなる指先に、軽くだけど
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