第213話
地の妖精の話では、196番ダンジョンは湿地帯。全滅したパーティは、湿地帯の怖さを知らなかったようだ。
《 三階の広場で、魔物よけの結界内で結界も張らず、テントも使わずに寝てての水死 》
「……そいつは死んでもおかしくはないな」
湿地帯ダンジョンの怖さは、地形が気付かない内に変わってしまう点だ。日中は陸地のところでも、夜間は水の中、という場所は多い。そんな場所は草木が生えない。生えたとしても、それは水生植物だ。そんな場所でも、結界を張っていれば溺死することはない。テントの中なら、さらに安全だ。朝になれば水没していた痕跡が消えてしまうからだ。夜に雨が降ったかなー? という程度の湿り気が地面に残るが、湿地帯のためだと誤解する冒険者たちもいる。
「入った連中は隣国から来たパーティだ。全員が上級ランクの上、結界石もテントも持っていると言っていたが……」
「隣国ってサヴァーナ?」
「いや、コルスターナ」
「コルスターナって、僅かだけど湿地帯が残る国じゃなかった?」
たしか国の半分が湿地帯になっていて、水は他国よりは多めだが魔物も多い、という。そのぶん冒険者も多く、豊かとは程遠い。
「ああ。身近に湿地帯があったから、注意が足りなくなったんだろうな」
「自然を甘く見れば簡単に生命を奪われる。そんなこと、冒険者だからこそ知らなくてはいけないだろうに」
このダンジョンで全滅するパーティの大半は、今回のように自然を甘く見た結果だ。残りは強力な魔物と遭遇した不幸。ただ、どんな場合でも、緊急脱出用の魔導具を持っていれば難を逃れることが可能だ。
「そのパーティの孤児は?」
「三人だ。そっちには本部から保護に向かった」
「エミリア、いるかー?」
ダイバが事務室に入ってきて、私の姿を確認すると何故か安堵したように息を吐いた。
「ダイバ? 何かあった?」
「あ、ああ。バカな連中が指名依頼でエミリアに自分の国まで護衛を頼もうと考えている」
「却下」
私が即答するとダイバが私の頭を撫でながら苦笑する。
「大丈夫だ。エミリアが依頼を拒否したのは俺も聞いた。これ以上は大陸法違反の罪になる」
スワットも頷いて同意してくれた。
「もしかして、あれ? 本人の預かり知らぬところで『
「これで五回目だな」
「連中は『
「……別の形で『お礼』してもいい?」
「だいたいわかるが……何をする気だ?」
「国でアレの檻を破壊して暴走させる。あ、王都がいいかな? やっぱり
「エ・ミ・リ・ア、いいから落ち着け。わかった、わかった。依頼は断るんだろ。今後の依頼はギルドと都長補佐がはねつけるからな。そんなことしなくていい」
ダイバに頭を撫でられて止められた。
このダンジョン
それはそのまま『大陸法を違反した罰』として、私へのお咎めはなかった。
ダイバとアゴールの二人とは、その時からの付き合いだ。
「スワット。それで現在までの情報は?」
「ああ、パーティは五人。大人男女二人ずつ、こいつらは夫婦だ。そして十四歳の息子。ほかの子供三人も連れて行こうとしたが、冒険者登録していないため宿に戻った。そっちには本部が保護に向かっている。場所は196番ダンジョンの三階の広場で死因は水死。結界石やテントを使わなかったらしい」
「湿地帯ダンジョンの水没は一瞬だからな。気付いた一分後には膝上まできている。それ以上はこないから、寝るなら数段高い場所か結界を張るのが常識だが……」
「情報収集不足もある。冒険者ギルドで情報収集をしてこなかったらしい」
「それで登録していない子供まで連れて行けると思ったのか?」
「パーティはコルスターナ国出身だ。エミリアとも話したが『湿地帯を甘く見た』結果だろう」
経験だけで入れるほど、このダンジョンは甘くない。私は、地の妖精たちからの情報と『
「わかった。今から入ってくる。回収に間にあえばよいが……」
ダンジョン内で死ねばダンジョンに飲み込まれる。それまでの猶予は約三時間。魔物を討伐しながら入ったならすぐに駆け付けられるが、攻略や採取が目的なら魔物を
《 エミリア。魔物は四階以下に追い払った。ダイバたちがすぐに向かえば間に合う 》
《 水没しないように抑えているよ。でも足首までは水に沈むから 》
「ありがとう、みんな。ダイバ、すぐに向かって。妖精たちが魔物を四階に押し込んでくれたから。それと水没を止めてくれてるけど足首までは沈む。忘れずに水よけを掛けて」
「わかった。ありがとな」
ダイバはそう礼をいうと、すぐに事務室を飛び出していった。
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