第212話


ダンジョン管理部警備隊隊長という肩書きを持つダイバから魔物の肉に関する注意を受けた一行は、ダイバのアドバイス通りに五十キロから小分けで多数の依頼を冒険者ギルドにだした。それなら一回のダンジョンで、自分たちの取り分を十分に残せる量だ。


「エミリアはダンジョンに行かないのか?」


変わらず見世物状態の檻を見に広場へ向かうと、偶然ダイバと会って現状を教えてもらった。檻はやはり強度が足りず、簡単に鍵が吹き飛んだそうだ。そのため、改めて魔物専用の強固な檻を作ることになった。そんな事情から、魔物の肉を集めるのに余裕ができたらしい。

そして、ダイバに『肉集め大会に参加しないのか?』と遠回しに聞かれたのだ。


「行ったらそのまましばらくは関所ゲートからでてこないよ。それに入るならグークース用の鮭かキノコ狩りだから」

《 キノコ狩り! 》

《 118番ダンジョン! 》

「今すぐじゃないよ」


妖精たちはキノコ狩りが好きなため、私の言葉にはしゃぎだす。誰のキノコが大きいか、というこれまた賑やかな大会を始めるのだ。このあと、キノコ汁をしたり、その中に『水団すいとん』を入れたり。キノコグラタンやキノコピザなど、様々な料理が連日連夜続くのだ。


《 下調べしよっか? あ……ダメだ。エミリア、ダイバに伝えて 》

「ん? ……なんかトラブルでもあった?」

《 196番ダンジョンで……パーティ全滅 》

「ダイバ!」

「うおっ! なんだ、どうした?」


そばに立つダイバにしがみつくと、それまで私たちを笑って見ていたダイバが驚きで声をあげる。


「196番ダンジョンでパーティが全滅したって!」

「‼︎ エミリア! 詳しい情報は関所ゲートのスワットに回せ! 俺も隊を引き連れてすぐにいく」


一瞬で険しい表情に戻ったダイバが駆け出すと同時に、風の妖精が庁舎へ吹き飛ばした。緊急時には安全に送るように言っているので、気絶するような飛ばし方はしていないだろう。


「みんな、いくよ」


私の言葉に、風の妖精以外全員が涙石の中に入った。



風の妖精と共にスワットの元に到着すると、すでにダイバから私が向かうことを聞いていたのか。スワットが関所ゲートの事務室を開けて待っていてくれた。関所ゲートは封鎖されて、シエラが関所ゲートを出る冒険者の対応をしていた。


「はい。ダンジョンは閉鎖になります。……はい。封鎖解除に……。いえ、それは困ります」

「なんだ、あれ? 新人かよそからきた冒険者か?」


どうやら、「ダンジョンに入り直せないなら詫びに自分たちと付き合え」と言っているらしい。


「エミリア、ちょっと待っててくれ。シエラ、トラブルか?」


スワットが出ていくと、冒険者たちは慌てふためいているようで、しどろもどろになっている。


《 えーい! 女の敵はエミリアの敵ぃー! 》


火の妖精が涙石から飛び出すと、一瞬後に叫び声が響いた。


「アチィー!」

「助けてくれー!」

「ギャァァァ! 髪がァァァ! 俺の髪がァァァ‼︎」

「あー。……また髪の毛を丸焼きにしたな」


見なくてもわかる。そう思っていたが、戻ってきたのは火の妖精とくらやみの妖精だった。


「クラちゃん……。いつの間に飛び出してたの?」

《 ここに着いたとき。シエラをニタニタ笑いながら見てる男たちがいたから気になって 》

「で?」

《 半数は『首から上』にあるすべての毛根を窒息させて死滅させた 》

《 残りの半数は私が髪の毛を焼いてきた! 》


『だけ』を強調する火の妖精。きっと「熱い」という声で、髪の毛以外まで焼いたと私に誤解されると思ったのだろう。


「エミリア、待たせたな。妖精たちはいるか?」

「ここに」


そう言いながら二人の頭を撫でた。スワットはその手の動きで二人の位置を予測して目を向ける。


「シエラを守ってくれてありがとな。連中は外にいた警備隊に引き渡した」

くらやみの妖精の話だと、最初はなっからシエラが一人になるのを待っていたみたい」

「そうか。助かったよ」

《 あんなのを放置してたら、エミリアを狙いかねないもん 》

《 エミリアを狙ったら、性転換おんなのこの罰だからね! 》

「……ってさ」

「そりゃあ、男娼館の連中が喜ぶな」


妖精たちの言葉を通訳すると、スワットが面白がって笑う。一頻ひとしきり笑うと、「じゃあ、本題に戻るか」と真面目な表情に戻った。

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