第214話


ダイバたちがダンジョンで遺体の回収が成功したものの、遺品は残っていなかったらしい。


「水に流された?」

《 地面に直接置いてると、所有者が死んだらダンジョンに『吸い取られる』こともあるんだよ 》

《 それがダンジョンのアイテムとして出没するんだ 》

《 それと、元々収納カバンを持っていない可能性だってあるよ 》

《 面倒でもステータス画面を使うことに慣れていれば荷物は武器だけで済むからね 》

「死んだら、ステータスや収納カバンに入っているものはどうなるの?」

《 家族や許可された人だけ使うことが可能だよ 》

《 その場合、収納カバン限定ね。ステータスだけなら本人以外は使えないから……そのまま消滅するよ 》

「じゃあ、私のはみんなに許可を出してあげるね。テントとか使えるようになればラクでしょ? その代わり、温室のお世話をお願いね」

《 エミリア……。死んじゃヤだよ…… 》


水の妖精が私の服の袖を掴んで涙を浮かべる。


「みぃちゃん……。私は寿命がある人間だからね。でも生まれ変わるから。そうしたら、また友だちになってくれる?」

《 うん……なる。何度でもエミリアと友だちになるよ 》

《 私たちも! 》

「うん。みんなとは生まれ変わっても、いつも一緒。そう思えば、死ぬのも怖くないし、生まれ変わるのも楽しみだよ」


水の妖精を抱き寄せるとみんなも抱きついてきた。白虎が擦り寄り、ピピンとリリンが肩に乗って頬擦りする。

うん。みんなとは生まれ変わってもこの関係は壊れない。そう約束してくれるみんなを、大切な人たちを守りたいと心から思った。



魔導具の製作に規約はない。ただ、新製品が安全なものかどうかの品質チェックは受ける必要があった。

ここダンジョン都市シティに移り住んだ当初に、製作した魔導具を持って庁舎内にある『魔導具安全管理課』へと向かった。


「これは本当にあなたが作ったものか?」

「はい、そうです」

「このような精度の高いものをそう簡単にいくつも作れるはずがない! さては、誰かから奪ったな! 言え! 誰から奪った‼︎ まさか、相手を殺してきたのか! そうか、それなら言えるはずがない‼︎」


応接室に移されて、挨拶もなく新製品の提出を求められた。礼儀のなっていない相手には『相手にあった礼儀』で返す。これ、取り引きにおいて基本中の基本。


「この程度の製品、造作もなく作れますが? え? こんな簡単なものすら作れないほど、ここの職人は技術が低いの?」


私が作ったのは、素材を錬金窯に投げ込むだけのもの。ただ、素材の一部を変えるだけで何種類もできた。ただそれだけ。手間がかかるのは素材集め。それだって購入が可能だ。

ちなみにこのとき出したのは『回復シリーズ』。限定三回で部分治療だけど、潰れた足や吹き飛んだ腕が完治する優れものだ。ちなみに『万能薬と〇〇』という組み合わせ。空欄には各種アクセサリーが入る。


「ふざけんな! このクソ女が! 作ったやつのレシピをすべて寄越せ! それを拒否したらキサマみたいな女に罪をきせて罪人に落とすぐらい簡単なんだぞ! おい! 死にたくなければ……」


机を挟んだ反対側で騒いでいる男を無視して応接室の外が騒がしいな~と思っていたら、応接室の扉が勢いよく開いた。


「おい! 何を騒いで……エミリア?」

「警備隊がなんの用だ! 出てけ! 俺はいまコイツを……」


男が私を指差した直後にアゴールが華麗な足捌きで蹴り飛ばした。男は壁に全身を叩きつけて呻き声をあげたが……


《 死んでないね 》

《 死んでもいいのにね 》

《 エミリアが止めたから手をださずに我慢してたのに…… 》

《 アゴールに先を越されたね 》

《 あとでエミリアをイジメた仕返しをしてやるんだから! 》

《 みんなで徹底的にやっつけてやろうね 》


涙石から妖精たちの声が聞こえる。……私が聖魔師テイマーだと情報部経由で知られているのに、痛みで蠢いている男はそれをフェイクだと思っていたのだろうか。


「アゴール……お前なあ」

「女性を見下す態度が許せなくて」


アゴールの言葉に大きく息を吐くダイバだったが、「そういうダイバだって、その右手は何?」と指摘されて、無意識に握りこぶしを作っていたことに気付いて苦笑した。

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