第162話


《 ちょっと、エミリア! ちゃんと聞いてるの⁉︎ 》

「聞いてるよ〜」

《 聞いてない。聞いてない。エミリアのその目は、全然聞いてない 》

《 どうせ「お腹がすいた」から始まって「なに食べようかな」って考えていた目でしょ 》

「…………なぜバレた?」

《 だって、もうすぐお昼ご飯の時間だもん 》

《 んもう! これは大事な話でしょう⁉︎ 》


私たちの脱線していく話に、火の妖精が口を尖らせる。


「今回のは異例なだけでしょ?」

《 でも…… 》

「うん、わかってるよ。心配してくれているんだよね。でも『商人排除』はしないよ」

《 ……でも 》

「そんなことしたら、屋台村で買い物できないよ」

《 えー! 》

《 それは困るー! 》


すでに昼食の準備に入っていた妖精たちがテーブルに戻ってきて会話に加わる。屋台村を回るのは、みんなも楽しみなのだ。


「だって彼らはだもん」

《 エミリア、ミリィの店とかは? 》

「ミリィさんたちは職人」


私の言葉に安堵のため息を漏らしたものの、屋台村が使えないのは妖精たちにも痛手のようだ。


「でもね。お店を開く以上、商人ギルドに登録しているから。……私だってそうでしょう?」

《 キャー‼︎ 》


今度は、みんな声を揃えて悲鳴をあげた。



強い魔物相手でも、私たちには赤子の手をひねるようなもの。


《 エミリア。なんにもしてないでしょ 》

《 してるよ。私たちみんなのコントロール 》

《 でも、エミリア自身は仕事してないでしょ? 》

《 ……私のコントロールはしてる 》

「私だって、収納とか、コントロールとか、収納とか。……やってるよねー?」


私の言葉に、ピピンとリリンが上下に揺れて同意をしてくれる。


《 もう! ピピンもリリンもエミリアに甘すぎ! 》

《 まあまあ、落ち着いて 》


文句を言う火の妖精を水の妖精が宥める。


《 そうそう。エミリアは今日も頑張ったよね〜 》

《 そうそう。エミリアは私たちの中で一番頑張ったよね〜 》


妖精たちの言葉に、ピピンとリリンがやはり同意するように上下に揺れる。


《 だ・か・ら。今日はもうね 》

「あ〜! しまったー!」


私が慌てると、みんなが『してやったり』という表情で顔を見合せた。ピピンとリリンは左右に揺れて、白虎はシッポを左右に揺らして、嬉しそうにしている。

さっきまで「何にもさせてもらえなかったから体力が余ってる」と言って、みんなに止められたのに……


《 本当に、ピピンの言うとおりだったね 》

《 『一番頑張った』と言えば、今日はこの先進めないよね 》

「ひっど〜い! みんなでイジメたー」

《 人聞きの悪い! 》


口を尖らせて文句を言うが、みんなには敵わない。


「まだ昼過ぎなのにぃー」

《 今日はもう『好きなこと』していいから 》

「じゃあ」

《 ダンジョンを進むのはダメ 》

「…………ケチぃー」

《 エミリア。ピピンとリリンが『鉱石の抽出作業をしたい』ですって 》


水の妖精がそう言うと、ピピンとリリンが上下に揺れる。


「うー……。いっぱい、こき使ってやるー」

《 ハハハ。『望むところだ』ですって 》

《 ほら。じゃあ作業室に行きましょ 》

《 私たちも手伝うからね 》

「……みんなも、こき使ってやるー!」

《 お手柔らかに 》

《 望むところ! 》

《 私にできることなら言ってね 》


性格によって反応はさまざま。

それでも、誰も『イヤ』とは言わない。『一緒にできること』を喜んでくれる。

私たちは一緒の部屋で一緒に過ごすことが多い。私にとって、それは『楽しい時間』だ。きっと妖精たちもピピンやリリン、白虎も、私と同じように『楽しい時間』だと思ってくれていたら嬉しいな。

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