第161話


《 でもね、私たちの危うさは誰もが知った方がいいって思うのよ 》


そう主張する妖精たち。

その結果が、『建造物の砂状化』から始まって『王城の崩壊』に続き『王都の消滅』へと進化していく。……いや、王都の場合は退化か。


「やりすぎは良くないよね〜?」

《 舐められすぎるのも問題だよ? 》

「いやいや。私、砂糖菓子じゃないし」

《 『甘いみつ』を通り越して『甘すぎるみつ』だよ 》

「うわー。胸焼けするー」


こんな話をしている理由、それは通算七回目のダンジョンを踏破して出てきた時のトラブルが原因だ。


「お! おかえり。十三番ダンジョンはどうだった?」

「ただいま。久しぶりに入ったけど、相変わらず鉱石が多いな。けっこうな量が採掘できたよ 。石英にソーダばいも。石英は何割かだけ粉砕してケイシャにしてガラス瓶に加工する」


そんな話をしていた時だった。


「そんなに採掘したんなら、こっちに融通してくれないか?」


そんな声が聞こえたが、私たちは無視。声はすれど姿は見えず。関所ゲートの外側から話しかけられても、冒険者は誰も相手にしません。


「次はどこに行く?」


スワットも、私が外に出る気がないことに気付いているようで、次に入るダンジョンを聞いてくる。


「そうだなー。薬草でも採取に行ってこようかなあ」

「薬草なら百三十三番か? 九十一番は薬草もあるが食人植物マンドレイクの出現と世界樹ユグドラシルの収穫も報告があがっている。ただし、通常の魔物も結構強いようだ。前に入った冒険者パーティは二階で脱出リタイアしてたから詳細はわからん」

「そっかー。九十一番は入ったことがないから、そっちに入ってくるよ」

「ふざけるな! 俺は商談を……」


関所ゲートの外で、さっきの商人らしき男が警備隊と押し問答している声が聞こえた。私と正当な商談中だと訴えているようだ。


「…………取り引きに応じるか?」

「まさか。こっちは商人で職人なんだ。あんな一方的な言い方をして商談中だとは片腹痛い。迷惑野郎とは取り引きするわけがない」


関所ゲートの向こう側では、まだ自己主張をしているようで、若い男の声が響いている。


「そんなもん関係ない! 相手は乞食の冒険者なんだ! 持っていても意味がないだろ! そこを商人が「二足三文で買ってやる」と声をかけてやったんだ! ありがたくすべて差し出せばいいじゃないか‼︎」

「おーおー。今の発言は、冒険者と商売の神にケンカを売ったな。だいたい『二足三文』って、商売をバカにしてるのか、冒険者を見下しているのか……?」


私が呆れた声を出すと、涙石から火の妖精が飛び出してきた。


《 ちょっと、燃やしてきていい? 》

「ダメ」

《 頭だけだって 》

「それでもダーメ」


飛んでいこうとする火の妖精の服の裾を掴んで引き止める。


「……どうした?」

「火の妖精が『髪の毛を燃やしたい』って」


私がそう言うと、スワットが都市側に通じる窓から外の様子を見てひと言。


「残念だが、燃やせるが一本もない」

《 えぇぇ! そんなのつまんなーい! 》

「スワット。つまんないって残念がってる」

「ハハハ。まあ、神の罰を二つは受けるんだ。ついでに大陸法にも引っかかる。それに「冒険者は乞食」という発言は、この『冒険者のための都市』にケンカを売ったんだからな。ただでは済まされないぞ。今度から冒険者に関わる商売もできない。商人自体できんだろうが……。まあ、今回はそれで我慢してくれ」

「そうだな。こっちは声をかけられただけで、あとは自滅したんだ。「同じ商人に迷惑をかけない」という商人ギルドの規約に違反したし。ほら、結論は出たんだから。涙石に戻らないと、このまま置いてくよ」

《 キャー! ダメー! 》


火の妖精が慌てて涙石へと戻る。スワットも私が手を離したため、火の妖精が姿を消したことに気付いたようで笑い出した。


「エミリアは愛されているな」

「私の言うことを聞かずに、王都をにするけどね」

「男女問わず、王族の頭でも全焼させるけどな」

「……まあ、それに至った事情は本人たちから聞いたけど」

「ああ。情報部が聞いた内容をニュースに流したから、俺たちも知っている」


あれはすべて『妖精の罰』としてステータスの賞罰欄に記載されている。そうなると、治療は薬も魔法も一切効かない。『薬師やくしの神に祝福されしもの』が作った高価な回復薬も万能薬も、神の罰と妖精の罰には効かない。なんだから、効いてもらっては困る。

国王は、わざわざ職人ギルドを介してポンタくんのところから取り寄せたらしい。あわせて一億ジルに足がハミ出た金額でのお買い上げ。

…………ここに生産者がいるんだけどねえ。

今でも続けている、ポンタくんへの品卸しなおろしは『エア名義』のままだ。それはレシピでも同じ。おかげで、私が隠している二つの称号はバレていない。そして、ポンタくんは『エミリア名義』の私と再契約した。私のことを口外せず、国外に住むひとりの職人として。

『相談窓口』があり、『直接、ギルドマスターがお伺いします』とあった。そこで、『エミリア』として連絡をした。ポンタくんから、すぐに通話で連絡がきた。私に記憶がないことをはじめ、こちらで起きたトラブルを説明して、エミリア名義で登録した商人ギルドと職人ギルドを脱退したことを伝えてお願いした。


「私が取り扱っている商品を買い取ってほしい」


最初は驚いていたポンタくんだったが、快く引き受けてくれた。『代行販売』という形で。こういう形で国や大陸をまたいで取り引きが行われることはよくある話らしい。


「もちろん、今まで通り、そちらで売買していただいて大丈夫です。……ひとりでよく頑張りましたね」


ポンタくんのその言葉に安心して、泣き出してしまった私を妖精たちが慰めてくれた。


「……そこに誰か、複数? いるのですか?」


その言葉に驚いて涙が止まった私。

ポンタくんはドワーフ族で、その種族の特性として妖精たちが見えるし声も聞こえるらしい。妖精たちが口々に私との出会いやその後のことを話すのを「そうだったんですか」「さすがですね」と言葉で相槌をうつ。通話で相手が見えていないからだが、そんな配慮も職人たちに慕われるマスターたる所以ゆえんなんだろう。


「エミリアさん。こちらで名義を分類します。基本、薬草や薬などは『エア名義』。それ以外の、入浴剤などそちらのお店で取り扱っているものは『エミリア名義』の代行販売という形です」

「はい。お願いします」


今は私専用の売買窓口を作ってくれている。そこには商品名と値段のリストが用意されていて、商品名に触れると買い取り口が開く。そこに売却数を登録して商品を送りつけている。品質などを確認後、私に一括で送金される。この窓口には『新規商品登録』もある。ここに新しく作った商品を放り込めば、ポンタくんがチェック後に商品の返却と金額リストを送ってくる。同時に売買窓口のリストも更新される。

代行販売の値段も、改めてポンタくんが決めてくれた。入浴剤や香水、ハーバリウムなど、私以外に作れる職人がいないものはすべて高値で。『貴族排除の指輪』は店頭に並ばず、商人ギルドと職人ギルドが買い占めた。貴族が商人や職人に接触するのは今でも禁止らしい。しかし、身分を隠して商品を購入しようとする貴族もいて困っているそうだ。

そのため、こちらで基本的に使われている貴族排除の魔導具を送ったら、構造を調べたポンタくんたちがさらに高性能な貴族排除の魔導具を開発した。それを建物に設置することで、貴族は完全に排除されるようになったと連絡がきた。魔導具が設置できない屋台や露店も、私の指輪を使うことで貴族との接触はほぼ完璧に回避された。

それによって起きていたトラブルもほとんどが解消されて、平穏な日々を送っているようだ。


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