第163話


「おかえりなさい、エミリアさん」


合計十三回目のダンジョンのクリアをして、関所ゲート前の広場まで転移された。

今日の担当はシエラ。ダンジョン管理部の女性職員の一人で、見た目は可愛いが男性顔負けの武人だったりする。生まれてすぐに難民となり、母親と一緒に大陸を渡り歩いてきたそうだ。


「私は母親と兄が一緒だったから寂しくなかったわ。それに、私たちは同郷としてみんなが家族として一緒だったの」


兄を含め、男性たちは冒険者になることを決めたため、この都市にきた。ここなら、家族と生きていけるからだ。母親はほかの女性たちと食堂を始めた。男性たちがってくる食材で食堂を経営しているため元手はタダだ。シエラは食堂の看板娘として働いていたが、ダンジョン管理部から声がかかり、今は関所ゲートの担当をスワットたちと週二で受け持っている。


「ただいま、シエラ。……どうかしたの?」

「え? あ、いえ。…………なんでもない、で」

じゃない顔してるよ?」

私の言葉に、慌てて両頬を押さえるシエラ。そのまま俯いてしまった。

「あ、の…………エミリアさんに、こんな話をするのは失礼だと思うのですが」

そう言ってシエラが口にしたのは、「父と兄二人が見つかった可能性があって、ダンジョン都市こちらへ向かっているらしい」ということだった。

「良かったじゃない!」

「姉もいるそうです。姉は仕事があるため長期間は国を離れられないそうで、今回は来られないそうです」

「でも、お姉さんと通話で会話できるかもしれないのでしょう?」


そう聞くと再び困った表情で俯いてしまった。


「私の家族だとしても、私……知らない人たちなんです。生まれてすぐに生き別れたので」

「そうだね。その点では『私と同じ』だね」

「え⁉︎ エミリアさんと、ですか?」

「そうよ。私も記憶がないからね。私を知ってる人でも『私は知らない』。ほら、シエラも同じでしょ?」

「……はい。私を知ってる家族でも、私は知らない人です」

「生まれた頃の記憶を持っている子はいないでしょう? まあ、子供時代の記憶を持っている大人も少ないし。だったら、私たちは『これから』思い出を重ねていけばいいじゃない」

「……そうですね。私もエミリアさんと同じように、前を向いて生きていけるようにしなきゃ」


さっきまで暗く俯いていたシエラの表情が明るくなった。……実は気付いていた。シエラが、『鉄壁の防衛ディフェンス』の一人、コルデさんの娘だと。だって、ユーリカさんに笑顔が似ているし、シエラの兄の声は、コルデさんの息子オボロさんに似ている。

シエラの兄の名はダイバ。討伐隊の隊長をしていて、今はこの都市の都長だ。

先日、エリーさんが来ていた。彼女は鑑定スキル持ちだ。ダイバやシエラと会って、気付いたのかもしれない。



ひと月ぶりにダンジョンから出て家へ帰った。


《 久しぶりの我が家だね〜 》

「これからどうする? 一週間くらい休む?」

《 明日から、屋台村のイベントでしょ? それを見てから休みましょ 》

《 そうだね。でも、久しぶりの人混みだから注意しなくちゃね 》

「そういえば、前回の『豪商の娘』ってどうなったんだろう?」


前回、私に絡んできた女性。情報部のニュースでは、イベント期間中ずっと、公開見せしめとして檻の中に入れられていた。そのまま期間終了まで公開されて、最終日の終了三十分前に「この檻は広場で公開されていた」と種明かしされた。期間中ずっと、警備隊の男性隊員に裸で色仕掛けをして失敗していたこともされていたのだ。


「ああ。そういえば、キミのお父上が責任を負わされることになった。キミが迷惑をかけた女性、彼女も『他国所属の商人』だ。……父親を廃業させてまで、何がしたかったんだ?」


そう言われて、悲鳴をあげて倒れたようだ。


《 それ以上の情報はきてないよね 》

《 そうよね。被害者のエミリアはダンジョンから出てこないし。ギルドに所属していない以上、今までみたいに「話し合いで」って言えないもん 》


そう。同じギルドに所属しているなら、私と話し合いで罰を決められる。しかし、今の私はに所属している。

『ギルド同士の話し合い』になるのだ。

私はポンタくんのギルドと契約している。そう、職人ギルドだ。しかし、どこの国、どこの大陸でも、職人ギルドと商人ギルドは提携し合っている。職人が店を持ち自ら販売することもあるからだ。だから、シェリアさんの商人ギルドに所属しなくても、ポンタくんのギルドに入っただけで『商人ギルドに所属している』ことと同じ意味を持つ。


「自分が対応します」


事情を知ったポンタくんがそう言ってくれたため、私は丸投げした。

そのポンタくんからは、まだ連絡を受けていない。話し合いが長引いているのだろうか。

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